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連載サウナ人生、波乱万蒸。

2021/02/01

その日は生涯で一番泣きました

「完成近くなった頃に、NHKさんに密着取材をしていただいたんです。ところが完成して、いざ火入れの日、取材クルーの前で『じゃあいきます』って点火したのに、全然いい感じにならない……。

 それまで薪ストーブすら触ったことがなかったので正直やり方がわからないし、小屋の温度も30度ぐらいにしかならない。更にストーブの塗装の臭いが充満して臭くって。ロウリュしても全くジュワッてならない。『あっ、これ終わったな』って思いましたね、正直。何とか自分を取り繕って『いい感じです!』とか言ってるんだけど、全然いい感じじゃない(笑)。マジで終わったと思って、その日は生涯で一番泣きましたね(笑)」

 オープンを目前に控え、死に物狂いでサウナ小屋にこもった結果、野田は一酸化炭素中毒と脅迫神経症のような症状を引き起こし、不眠にさいなまれていく…。

「小屋の温度が上がらないから開業できないかもしれないと焦る一方で、小屋が燃えるんじゃないかという強迫観念が常にあって、夜中に車で見に行っては『あぁ燃えてない、大丈夫だ』と確認するみたいな感じでした。その日は本当にしんどかったですね。次の日、社長と出張が入ってたんですけど、打ち合わせ中もスタッフからLINEが来ないか携帯凝視してて、完全に上の空(笑)。連絡全然来ないし、やっぱりダメか……って夕方ごろにパニックになっていたら突如、温度計が80度を指している写真がLINEで送られて来たんです。涙が出ました。

 社長が『よかったじゃん』って言ってくれて。その日はお祝いに、回らない寿司を食いました。社長がお祝いでおごってくれるのかなと思ったら『いや、それは自分で払いな』って言われて、自分で払うんですけど(苦笑)。あの日の事はたぶん一生忘れないと思います。完成したサウナに自分で最初に入ったときの感動は、今思い出しても鳥肌が立ちます。これはいいものが出来たなぁと思いながらも、そこから薪の消費をどう少なくするかとか、次の瞬間はもうそういうことを考えていましたね」

サウナを愛するが故の細やかなこだわり

 The Saunaの醍醐味といえば、夏はサウナ後の野尻湖へダイブ、冬は黒姫山の雪溶け水のキンキンに冷えた水風呂と最高の自然に包まれた外気浴。ここにも野田達のサウナを愛するが故の細やかなこだわりが見え隠れする。

「水風呂に関しては、大工さんと『小川が流れてるから、この水使いたいね』って話してたんです。それで庭にあったワイン樽を切って、小川の水が流れ込むように置いてみたんです。そしたらまんまと水が溜まって。でも水位がオーバーフローしないと、水が濁っちゃうなあと思っていたら、謎のトイみたいなのを大工さんが作ってくれて。皆さん気づかないくらいのV字の傾斜をつけているので、水が跳ね返って樽に注がれるという緻密な設計になっているんです。野尻湖は冬は水位が少ないですけど、水位があるゴールデンウイークから夏のお盆くらいにサウナ後に野尻湖で浮かぶのは本当に最高です。結局僕は野尻湖が好きなんで、その季節が一番好きですね」

 
 
 
 
 

「あそこはヤバい」

 2019年に開業すると、The Saunaの評判はサウナーの間でもどんどん広まっていった。

 そんな最中、新型コロナウイルス感染拡大による、1回目の非常事態宣言が発令され、客足は激減してしまう。しかしこれを神様のムチャぶりと思ったのか、この間に新たなサウナを作ろうと、野田は決意する。