「ああ、生きとったんや」「あ、生きてたんだ」
Z氏は、2002年に松永逮捕の一報を受けた際、「ああ、生きとったんや」との感想を抱いたという。その理由について、「ヤクザの上部団体のカネをつまんで追われとったから、いま頃はもう、どっかに沈められとるやろと思ってた」からだと説明する。
冒頭に登場した元愛人の絵里子さんも、松永の逮捕を聞いて、過去のトラウマが蘇るとともに、Z氏と同じ驚きを禁じ得なかった。
「あ、生きてたんだって。ていうか、もう殺されてると思ってたんで……」
彼女がそう感じたのは、次の経験をしていたからだと聞いている。
「借金の返済でおカネが必要になり、昔働いていたラウンジに戻ったんですね。そのときにヤクザの組長が私に会いに来て、松永の居所を聞かれたんです。詳しい話はされなかったですけど、『どこにおるか知っとるやろ?』みたいな感じで、自分みたいな一般人からしたら、もう怖くて、怖くて。それで松永がヤクザに追われていることを知りました。同じくらいの時期に、ワールドの前を通りかかったら、怖いおじさんがいっぱいいて、松永の白いベンツが引っ張られて行くのを見たりとかしていたので、これは見つかったら殺されるに違いないって……」
逃亡の11年前である1981年、地元・柳川市でワールドを設立した松永が思い描いた“大いなる野望”は、かように潰えたのだった。だが、彼は追っ手から逃げのび、そこからさらなる凶悪犯罪に手を染めることになる。
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この凶悪事件をめぐる連載(一部公開終了した記事を含む)は、発覚の2日後から20年にわたって取材を続けてきたノンフィクションライターの小野一光氏による『完全ドキュメント 北九州監禁連続殺人事件』(文藝春秋)に収められています。