92年3月に離婚した、松永の妻ジュンコさん
松永が妻のジュンコさん(本名は漢字)と92年3月に離婚したことはすでに記したが、これは夫婦での話し合いの結果ではなく、調停による離婚だった。じつはジュンコさんは同年1月に、松永による暴力に耐えかねて、長男を連れて家出。DV被害者を保護する「民間シェルター」に逃げ込んでいたのである。
昨年(2020年)の取材で、ジュンコさんが松永と結婚していた当時に通っていた、美容院の女性店主に話を聞くことができた。同店主によれば、ジュンコさんが家出をする直前に、店を訪れていたのだという。
「もともと奥さん(ジュンコさん)は、知り合いの紹介でうちに来てたんですね。全然派手さのない、おとなしくて可愛らしい感じの女性です。それであるときに、『今日が最後だから』って言うんです。彼女は、『こんままいたら、私殺されるかもしれんから。子どもと一緒に逃げて匿ってもらうから。探さんで』って。それはもう、尋常じゃない様子でした。
さすがに、なにがあったのかまでは聞けなかったんですけど、そんな話なので、ああ、これは虐待が始まったんかなって……。たぶんそんときより前から、施設には相談しよったと思うんです。だけん、『(逃げられる)施設を見つけたから。それも教えられんから』って話をしたんだと思います。あと、『(松永が)実家に来るかもしれんから』とも言っていて、行き先は『誰にも教えられん』って口にしたのを憶えています。これまでにも何回か、松永が実家に押しかけて来とったみたいですね。その日以来、彼女が店に来たことはありません。ただ、後で事件について聞いたら、何人も殺されとるでしょ。あんとき逃げとってよかったなあって思いましたね」
ちなみに、ジュンコさんについては、2002年に彼女の実家を取材した際、母親から「いまは普通の生活に戻っています」との言葉を得ており、無事が確認されている。
緒方が長男を妊娠「出産することを強く決心」
1992年当時の話に戻すと、後の裁判での松永弁護団による冒頭陳述のなかで、「被告人松永は、平成4年(92年)6月ころ、被告人緒方が長男を身ごもったことを知った」との文言がある。松永は中絶を促したようだが、それに対しては、「被告人緒方は、出産することを強く決心していたので、結局中絶することはなかった」と述べられている。この時期の緒方は妊娠3カ月と見られており、同年10月に柳川市から逃亡した際には、妊娠7カ月の身重の状態だった。