一方、メンタルな問題に起因する耳鳴りであれば、心療内科的なアプローチ(認知行動療法)が有効と言われている。
「耳鳴りは精神的なストレスからも起きるし、悪化もします。自律神経のバランスが不安定になると、それまで気にならなかったことが気になるようになる。この“それまで気にならなかったこと”の代表格が耳鳴りなのです。ビタミン剤や血流改善薬をベースに、精神安定剤や不眠の人には睡眠導入剤を使い、並行してカウンセリングを行うことが有効であることがわかっています。ただ、一般的に耳鼻咽喉科は小児を含めて患者が多く、ゆっくり時間を取ってカウンセリングができるところはほとんどないのが実情」と山川医師。耳のことは耳鼻咽喉科、メンタルは心療内科と、複数の診療科にまたがっての治療を余儀なくされることも、耳鳴りの治療を難しいものにしているのだ。
「命に関わる耳鳴り」の見分け方
さまざまな理由で起こる耳鳴りだが、気をつけたいのが「命に関わる耳鳴り」の存在。例えば「ザッザッザッ」と拍動性の音を発する耳鳴り、「脳動静脈ろう」だ。
「脳動静脈ろうとは、脳を覆う膜にある動脈と静脈が直接つながってしまうときに聞こえる音。放置すると静脈の圧が上がって、頻度は高くないものの、脳血流異常やうっ血、脳梗塞、脳出血の危険もあります。ただ、耳垢が鼓膜に付着していることで発生する音や、動脈硬化で硬くなった血管に血液が当たる音が聞こえることもある。鼻をすする癖や、鼻づまりのある人が鼓膜が薄くなると、耳を塞いだだけで、似たような拍動音が聞こえることがある。これらが原因なら問題はないものの、いずれも不快だし、気になるものです」
脳動静脈ろうの場合はMRI(核磁気共鳴断層撮影)やMRA(核磁気共鳴血管撮影)などの検査で診断がつく。脳血管内治療によって危険は回避できる。
このように、「耳鳴り」には数多くの原因があり、それぞれに応じた治療を柔軟に選んでいく必要がある。その数多い原因に新型コロナという新しい要素が加わってしまったのだ。
原因にもよるが、耳鳴りの多くは、薬を飲めばパッと治る、という性格のものではない。当人が症状が起きる仕組みを理解し、納得して不安を取り除くことが、結果として解決への近道となるのだ。