明らかになる高圧的な言葉の数々
公判検事は冒頭陳述で西松建設をはじめとしたゼネコン各社と小沢事務所の金庫番とのやり取りを再現していった。ゼネコンの担当者に向け、大久保の口から飛び出す高圧的な言葉が生々しい。
「最近、西松は協力的じゃねえじゃねえか」
大久保の初公判は、西松建設首脳を摘発した事件のときにもまして、法廷に臨んだ公判検事たちの力が入っているように感じた。たとえば、大久保から西松に伝えられた次のような言葉まで紹介した。
大久保は、西松建設が工事を受注した岩手県の胆沢ダムを自ら「小沢ダム」と呼んで憚らなかったという。法廷に立った公判検事は、東北地方の建設業界における小沢事務所の絶大な影響力を強調した。
岩手県発注の遠野第二ダム建設工事について、大久保は西松建設東北支店長から受注したいと陳情を受けている。それで、西松側にお墨付きを与えたという。公判では、検事がこのときの大久保のいかにも横柄な物言いを次々とピックアップした。
「よし分かった、西松にしてやる」
政治献金の大幅減額を申し入れた清水建設に対し、大久保は次のように怒鳴りつけたともいう。
「何だと。急に手のひらを返すのか」
大久保は小沢事務所から頼まれた不動産の仲介を断った大成建設に工事受注の了解を与えないと言い出した。
「(大成は)もう駄目です。奥座敷には入れさせません」
実際、大成建設はしばらく岩手県発注工事を受注できなかった。
絶対権力者の影響力
一連のゼネコン事件公判で、検察側が頻繁に使っていた言葉が、小沢事務所による「天の声」だ。天の声は公共工事における入札の際、国交省や地方自治体の関係者を一声で黙らせ、水面下で受注業者を決める絶対的指示を意味する業界の隠語である。運輸・建設族の大物国会議員から自治体の首長、各種外郭団体の天下り役人にいたるまで、「天の声」の出所は様々だが、わけても東北六県でその声を発してきたのが、小沢事務所だったという。
ダミー団体による西松建設の違法献金事件で、東京地検特捜部が東北の建設談合事情にまで踏み込んだのは、事件の背景にある絶対権力者の影響力を立証しようとしたからにほかならない。検察の主張に対し、むろん小沢サイドは猛反発してきた。
「献金を受けたのはダミー団体という認識がなかったからだ。献金の額も突出していない。これは検察による公訴権の乱用だ。大久保は建設会社の窓口だったにすぎず、談合にも関与していない」
しかし小沢側の主張は、具体性に欠ける分、あまり説得力がない。