父親が脳梗塞で倒れた。二十五年前に家を出た息子が家に戻って介護する。事務所退所前に長瀬智也が演じる最後のドラマだ。

 父親の観山寿三郎(西田敏行)は能楽師で人間国宝だ。息子の寿一(長瀬智也)は四十二歳で弱小団体のレスラーだ。四歳で舞台に立ち、神童と呼ばれ、次の宗家と期待された。しかし厳格な父は、息子に心を開かない。反抗期を迎えた寿一は十七歳で家を出てプロレス界に。憧れのレスラーはブルーザー・ブロディだった。舞台からリングへ。

主人公・観山寿一を演じる長瀬智也 ©文藝春秋

 父親は二年前に倒れた。その間の面倒をみていた妹(江口のりこ)や弟(永山絢斗)にすれば、何をいまごろの気持ちが強い。

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 しかし観山流宗家の西田敏行は奇跡的に生還する。介護ヘルパーの志田さくら(戸田恵梨香)を見て、下半身不随だが反射的に立った。宗家が立った、いや勃ったと下ネタ・トークも。

 弟子たちの前に電動車椅子で登場した宗家は「シュクヨロ!」と性格も一変。余命は長くて一年だ。「これからは好き勝手に生きていく。さくらちゃんと結婚します」と宣言する。

 彼女を車椅子の脚の上に乗せた宗家。「重くない?」と甘えるさくらに「マヒしてるから平気」の反応に思わず爆笑した。「加藤(カト)ちゃんパターンじゃないの!」と江口のりこ。

 色気全開で年寄りをタブらかす戸田恵梨香のファンキーな魅力がドッカーンと炸裂する。「SPEC」の戸田恵梨香が戻ってきた。

 遺産なんていらねえが、宗家を継いでやろうじゃねえか。寿一がいうと、「それは天人の羽衣とて」と父が謡いだす。寿一も謡う。ダメ出し。また寿一がトライすると、江口のりこと永山絢斗も無表情なまま唱和する。怯えた顔になる、さくら。「急に呪いの儀式が始まったのかと」。またも大爆笑した私だ。

 ケア・マネ(荒川良々)が来て、認知症テストをする。「野菜の名前をいって下さい」。野菜の名を即答出来ない父を見て、子供たちに怯えの表情が浮かぶ。

寿一の父親役・西田敏行 ©文藝春秋

 さくらは寿一に入浴とOMTを命じる。OMT? 「オムツ交換です」。寿一は父の足も洗えない。「他人の私が出来て、なんで息子が出来ないの」と、さくらがなじる。「息子だから出来ねえんだよ……」

 ブロディの話も少し。古舘伊知郎は「インテリジェント・モンスター」と呼んだ。彼は三十三年前にプエルトリコで刺殺された。

 ブロディ語録から。「鶴田も天龍もヤングボーイではない。私も、もう決して若くはない」。彼らとの「闘いには、十年十五年のキャリアとハードワークが“賭け金”になっている」。

 そうか、寿一の帰還は、幼児期の父との断絶、そして二十五年間の空白という観山家の歴史が賭け金になっているのかと納得した。

『俺の家の話』
TBS系 金 22:00~
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