昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載完全版ドキュメント・北九州監禁連続殺人事件

2021/02/16

genre : ニュース, 社会

山形さんの実母が送金した金額は約1億3000万円

 山形さんの実母からの送金がなくなって以降、松永による彼への暴力はエスカレートするようになった。それまでの通電などに加え、洗車ブラシで山形さんを殴ったりするようになり、命の危険を肌身に感じた彼は、ついに逃亡するに至ったのである。山形さんは私の取材に説明していた。

「あのときは本当にこのままだと殺されると思い、逃げ出しました。ただ、逃げ出した者を執拗に追跡する松永の性格を知っているだけに、実家に戻るわけにもいかず、住み込みで働ける場所を探し、そこで長期にわたって身を隠したんです」

 なお、補足しておくが、山形さんが逃走して間もない1月下旬に、緒方は長男を出産している。

幼稚園勤務時代の緒方純子

 山形さんの母親がいかに“金づる”として、松永から多額の金銭を搾取されていたか。前出の論告書には以下の文言がある。

〈山形が逃走するまでの間に、山形のために実母が送金するなどした金額は、総額約1億3000万円に上る〉

 検察側の冒頭陳述によれば、ワールド時代に松永らが詐欺商法等で得た金額は、「少なくとも約1億8000万円」とされており、そこから計算すると、山形さんの母親が支払った金額は、約72%を占めていた。つまり、彼女こそが金銭的には最大の被害者だったのだ。

「親を騙してカネを作ることが、すごく自然なことだった」

 なぜこうした金額が算出されたかというと、山形さんの母親が、支払った内容について詳細に記録しており、その出納帳を福岡地検が押収していたからである。今回、同地検から山形さんに返却された資料を借り受けることができた。松永がいかにして親心に付け込み、なにも知らない母親からカネをむしり取ってきたかが、記録された数字から生々しく浮かび上がる。

 ちなみに、これほどの大金が実家にあった理由を山形さんに尋ねたところ、父親が残した遺産と、父親の死亡時に支払われた生命保険金とのことだった。そして母親から大金を引っ張り続けていたことについては、正常な思考を失っていたと説明する。

※写真はイメージ ©️iStock.com

「(ワールド時代は)ずっと辛くても考えないようにしていました。そのなかで、親を騙してカネを作ろうと思ったんです。当時の自分としては、それがすごく自然なことでした」