狼のレゴシは「男性性」にどう折り合いをつけるか
さて、『BEASTARS』のレゴシがそのような男性の系譜に当てはまることは見やすいだろう。彼は異種族(ウサギのハル)に対する欲望に戸惑いながら、自らの欲望の統御とその意味づけをし、成長していく。
『BEASTARS』は大きく分けるとアルパカのテムの食殺犯が判明し、レゴシが彼と決着をつける11巻までと、レゴシが学校を辞めて、ヒョウとガゼルのハイブリッドであるメロンとの対決をしていく12巻以降に分けることができるが、とりわけ前半の、食殺犯であるヒグマのリズとの対決に向けて、レゴシはある行動原理、もしくは自分の欲望のある意味づけを固めていく。
「(草食動物を)1匹たりとも不幸にさせない!!」(10巻)「草食獣のため」(11巻)ということ、つまり草食獣を守るということを彼は行動原理として自分に課していくのだ。
結果として出てくる「弱者を守る」という原理は、少年漫画としてはおなじみのものに聞こえるかもしれない。しかし重要なのはレゴシがその原理にたどり着くプロセスである。『ズートピア』の文脈や「助力者」としての男性性の系譜を考えたときに、「草食を守る」というレゴシの原理は、新たな時代の男性性の宣言と読むことができる。
草食動物を守りたい…レゴシの「目覚め」が排除するもの
『BEASTARS』の物語は、レゴシが前半のリズとの対決によって「助力者」的な男性性に目覚め、後半ではレゴシ自身が実は「純血」のオオカミではなくコモドオオトカゲの血が入ったクォーターであることが明らかになり、同じくハイブリッドである悪役メロンとの対決を経て、(ウサギのハルと結ばれることによって)めでたく多文化主義的かつ異性愛的な主体を手に入れる方向に進んでいく。
だが、このような要約は、レゴシの性的指向について重大な排除を行っているように思われてならない。それは、簡単に言えばレゴシが潜在的に持っている同性愛的傾向、もしくはもう少し繊細に言えば異性愛の枠組みには収まらない不安定な性的指向である。