目から鱗が落ちた。本書を読み始めるとすぐ、「えーっそんなのでいいの?」という驚きを私たち日本人にもたらすだろう。絶滅動物を復活させるプロジェクトは日本でも進行中だが、おそらく日本人の性格から完璧な復活にこだわりすぎてしまい、成功のめどは立っていない。著者はそんな我々の試みを(本書の中で素晴らしい成果とほめつつも)ほぼ不可能とバッサリ切り捨て、そして最新のゲノム編集技術を利用した「脱絶滅」という新しい概念を提唱している。
脱絶滅では完全復活を目指していない。絶滅した動物種の特徴、たとえばケナガマンモスの毛の遺伝子と寒さに強くなる遺伝子を近縁種であるアジアゾウに導入するだけである。このゾウは、外見がマンモスに似ているだけでなくマンモスと同じように雪の中で生活できるようになるだろう。科学的には耐病性を持たせた遺伝子組み換えジャガイモとおなじレベルであるが、この方法なら現在の科学でも実現できそうである。
マンモスの遺伝子を導入して極寒の地で生存できるようになったゾウをマンモスと呼べるのだろうか。私は完全復活を目指す研究者であり、当初、著者の考えは到底受け入れられなかった。だが本書を読み進めるにつれて「それもありかも」から「それしかないか」と思うようになってしまった。なぜなら本書を読んで初めて分かったのだが、人々が求めているマンモスは一〇〇%マンモスである必要がなかったのである。
本書はマンモス発掘の体験談や脱絶滅の価値、あるいは倫理問題などに触れながら、研究者がなぜ絶滅動物の復活にこれほどまで情熱を傾けるのかを語りかけてくる。また専門用語をほとんど使っていないため、理系だけでなく文系もワクワクしながら読めるだろう。絶滅動物の復活を楽しみにしている人々ならもちろんのこと、そんなことは人間に許された行為ではないと考えている人々にも是非読んでもらいたい一冊である。
Beth Shapiro/1976年生まれ。カリフォルニア大学サンタクルーズ校の生態学および進化生物学准教授。古生物DNAを専門とし、ドードー、リョコウバト、マンモスなどのDNA解析の第一人者として活躍。
わかやまてるひこ/1967年生まれ。山梨大学生命環境学部生命工学科教授。著書に『クローンマンモスへの道』などがある。