マルチ商法の幹部たちは豪邸暮らし
書籍の第三章では、著者以外のマルチで人間関係を破壊された人々の姿が細密に綴られている。この部分の元はnoteに掲載され大反響を呼んだ。「マルチ商法ってまだあるんだ」といった一般の感覚がいかに間違っているか、いやというほど実例を突きつけられる。夫が母が恋人が……別人になっていく、その恐ろしい変容は、しかしまた我々の隣で起きる可能性があるのだ。
マルチ商法の幹部たちの多くは豪邸に暮らし優雅な日々を送っている。ある幹部はクルーザーに会員を乗せて東京湾クルーズをしていた。その陰には、借金で苦しみながらもマルチ商法を狂信しては周囲の人間を失っていく人々がいるのだ。
三年ぶりに娘に会い食事に向かった時のことが最終部に記されている。
「注文して少しすると、娘が下を向いた。娘は声を抑えて涙を流していた。(略)これ以上、僕と一緒にいさせるのは可哀そうだった」
マルチ商法で壊されてしまった父娘、どちらにも罪はない。あまりにも辛い景色が目に浮かぶ。合法だから、というエクスキューズで済まされていい商法ではないのだ。
ズュータン/会社員。妻がマルチ商法にハマり、娘を連れて家を出たことをきっかけに、マルチ商法の情報収集と情報発信を開始。同じような境遇にある人の語りを記録した記事はnoteで30万PVを超え大きな反響を呼んだ。
なつはらたけし/1959年、千葉県生まれ。ルポライター、漫画原作者。『クロサギ』『正直不動産』などの原案を手掛ける。