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“特攻服で怖がらせる””幅の狭い机でプレッシャーを” サラ金業者が語った「集金業務」という”ゲーム”

『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』より #1

2021/03/25
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感情労働としての債権回収

 現在、一般の消費者に対する債権回収には厳しい規制が加えられている。1983年に制定された貸金業規制法によって、債務者に返済を督促できる時間帯の制限や、「威迫」の禁止などが明確化され、その後も段階的に規制が強化された。1990年代のプロミスで「資金回収の神様」と呼ばれたある幹部は、顧客の心を巧みに開かせ、個人的な信頼関係を構築して金を取り立てることに長けていたという(岩田 1996)。

 しかし、こうしたマイルドな取り立ての一方で、脅迫的に支払いを求めることも珍しくなかった。サラ金業者は、巧みに法の抜け穴を探り当て、言葉を慎重に選びながら事実上の「威迫」を加えており、過酷な取り立ては21世紀初頭に至るまで止むことはなかった。

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 感情労働としての債権回収について生々しい証言を残しているのが、元中堅サラ金業者の室井忠道である。室井・岸川(2003)によれば、債権回収の際には、延滞している債務者に「効率よく怖がって貰う」ことが必要だった。一日に何軒も回収に行くのだから、四六時中怒鳴っていては声が嗄れてしまう。そのため、服装は「おっかなそうな格好」でなければならない。「我々の取立の時は、アメ横で買ってきた特攻服を若いヤツに着せたり、ダークスーツで行ってたけど、いまのヤミ金の連中もそういうドスを利かせる感じでしょう。作業着やジャージじゃ怖がらないから」。恐怖という感情を掻き立てる強面の回収スタイルは、大手の消費者金融も大同小異だったと室井は述べている。

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債務者の恐怖心を煽るための細々とした工夫

 加えて、室井の店舗では、回収を行う別室のテーブルとして特に幅の狭いものを選んで置いていた。顧客と顔が接近している方がプレッシャーをかけられ、取り立てや交渉で有利になるからである。債務者の精神を効率的に圧迫し、恐怖心を煽るための細々とした工夫は、回収業務の過程に様々な形でちりばめられており、そうした工夫が債権回収の成績を上げるうえで不可欠だった。

 債権回収の担当者が感情をコントロールする対象は、債務者本人だけに留まらず、時に債務者の家族にも及んだ。法律的には、浪費的な使途のために借りた金は、債務者本人以外に返済の義務はない。1983年に制定された貸金業規制法では、家族を含む第三者への支払い要求が明確に禁止されている。