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“特攻服で怖がらせる””幅の狭い机でプレッシャーを” サラ金業者が語った「集金業務」という”ゲーム”

『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』より #1

2021/03/25

 創業者一族は高額納税者番付に名を連ね、法人所得ランキングの上位にも毎年のようにランクインしていたサラ金各社。一方で利用者はしばしば深刻な多重債務に陥り、破産や自殺に追い込まれる人も少なくなかった。1983年の貸金業規制法制定によって、厳しい督促は制限されるようになったが、債権を回収しようとするサラ金業者は、巧みに法の抜け穴を探り当て、言葉を慎重に選びながら事実上の「威迫」を実施。過酷な取り立ては21世紀初頭に至るまで続いた……。果たしてサラ金業者はどのような方法で取り立てを行っていたのだろう。

 東京大学大学院経済学研究科で准教授を務める小島庸平氏の著書『サラ金の歴史』を引用し、苛烈な取り立てを行っていたサラ金、消費者金融の知られざる内実を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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男女間の役割分担

 サラ金の有人店舗には、原則として男女がそれぞれ最低一人は配属された。窓口での対応や、一回目の延滞を起こした顧客に対する連絡は男女問わず担当したが、基本的には女性が営業、男性が債権回収というように、男女の分業がはっきりしていた。業界内で女性支店長はめずらしくなかったものの、最大手の武富士では、回収は基本的に男性社員の仕事であり、回収できなければ支店長にはなれないという暗黙の了解があったという(中川 2006)。

 小田(2006)は、こうした男女間の性別役割分業の理由を、客には男性が多いので女性の甘い声で営業をかけた方が成績が上がり、反対に債権回収は男性でないとなめられるうえ、客の暴力などの危険があるからだと説明している。

©iStock.com

 貸金業者は、「貸すときの地蔵顔、返すときの閻魔顔」などと言われることがある。サラ金では、女性に地蔵顔、男性に閻魔顔を割り振ることで、店舗の運営が円滑になるよう工夫していた。貸し付ける時には顧客の自尊心を尊重して丁寧な接客を心がけ、反対に回収の際には軽く思われないよう力強い態度で返済を要求する。サラ金における男女間の分業は、女性社員を債務者の予期しない行動から隔離する配慮と同時に、顧客(特に男性)の感情を自社に都合よくコントロールしようという意図に基づいていた。

顧客の罪悪感や恐怖心に働きかけて行う回収

 顧客の感情に働きかけるサービス業に独特な労働のあり方は、「感情労働」と呼ばれる。漫画『闇金ウシジマくん』を社会学の視点から丹念に読み解いた難波(2013)は、「感情労働」という言葉を生んだホックシールド(1982=2000)が、集金業務を感情労働の一つとして挙げていることに着目している。

 肉体労働者が肉体で稼ぎ、頭脳労働者がアイデアや専門知識を売っているように、感情労働者は自らの感情をコントロールし、顧客の感情を雇主に有利なように誘導することで賃金を得る。営業スマイルを浮かべ、航空機内で「真心」のこもったサービスを提供するキャビン・アテンダント(CA)は、典型的な感情労働者である。

 ホックシールドによれば、CAだけでなく、顧客の未払い代金を回収する航空会社の集金人も感情労働に従事していた。集金人は、必要に応じて怒りや苛立ちを露わにし、料金を滞納する顧客の罪悪感や恐怖心に働きかけて回収を行うからである。

 サラ金の社員もまた、航空会社の集金人に類似した業務に従事しており、ホックシールドの言う感情労働者とみなせる。以下では、サラ金やクレジットカード会社などの消費者金融に特有な感情労働である債権回収に注目して、その実態に迫ってみたい。