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違法であるはずの代理弁済を引き出すためのノウハウ

 にもかかわらず、同法制定後も某サラ金は勉強会を開き、債務者の家族に入金を説得するロールプレイング研修を行っていた(ほのぼの 2003)。講師となる上司が夜逃げした債務者の父親を演じ、回収役の社員は代理返済に応じるよう働きかけるのである。

 社員の間では「学芸会」などと揶揄されていたが、父親役の上司は豊富な債権回収の経験を持っており、役作りは真に迫っていた。研修では、入金を説得する際には「返済しろ」とは決して言わず、「協力」を「お願い」するという形で、貸金業規制法違反を免れようとしていた。本来は違法であるはずの代理弁済を引き出すためのノウハウが、研修の場で議論され、共有されていた。

 さらに、親だけでなく子どもに対して督促を行うこともあり、サラ金業者が小学校宛てに支払催告書を送りつけて問題化したこともあった(『朝日』1983年6月18日付朝刊)。督促を受けて恐怖を感じた子どもが、夜尿や自傷行為を起こした例も報告されている(武富士被害対策全国会議2003)。1999年に大手サラ金に入社した金太(2003)は、子どもを利用した債権回収の方法を、やや冗談めかして次のように紹介している。

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©iStock.com

 延滞している債務者に電話で督促していると、支払いを引き伸ばすために子どもに受話器を取らせ、「親はいません」などと居留守を使われることがある。そんな時には、子どもに向かって「僕、アンパンマンだけど……」と名乗るのがよい。子どもは「ホントに?」と食いついてくるから、今度家に行くからね、などと言って丸め込めば、親に電話を代わってくれる。結果的に親が電話口でアンパンマンにペコペコ謝ることになるので、子どもの夢を壊してしまうが、やむをえない。小学生になると疑われるから、あくまでも対象年齢は5~6歳くらいまで。年末ならば、アンパンマンはサンタクロースに置き換えてもよい。

 債務者本人だけでなく、家族の感情をもコントロールしながら債権回収を行う手立ては、しばしば面白おかしく話題にされ、共有された。小手先の小細工も含めた工夫の積み重ねによって、サラ金の回収技術は徐々に進化し、債務者をさらに追い込んでいく。「パパ/ママはどうしてアンパンマンに謝ってたの?」などと子どもに聞かれた債務者が抱くであろう屈辱感とやり切れなさは、察するに余りある。時に家族も巻き込みながら、債務者本人に精神的打撃を与えることが、債権回収を効率的に進めるうえでは有効であり、必要だった。

(中略)