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「原始的だがいちばん安全なんや」

 その一方、世界中から観光客が訪れる香港には、得体のしれない投資資金が集まるようになった。06年のライブドア事件の渦中、怪死した日本人ファンドマネージャーが香港を拠点に活動してきたのは有名な話だ。世界中の辣腕証券マンやヘッジ・ファンドがうごめいている。いきおい香港は、投資や送金の出どころなども詮索されないシステムを備えてきた。マネーロンダリングにはもってこいだ。

 では水谷建設は、どうやって裏金を香港に集めていたのか。そこを尋ねてみた。

「日本の円を海外で現金で大量に用意できるのは、香港しかないわけや。もともとの取引はドルで、それを香港で換金し、鞄に入れて持ってくる。原始的な方法に見えるかもしれんけど、それがいちばん安全なんやで」

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 先の業者の一人が解説する。では、その裏金づくりの手法とはどんなものか。

「それは重機の取引や。中古重機の売買で儲けた利益の大部分が、裏金になるのや。重機土木業者は、中古になったダンプやブルドーザーなんかの大型重機を海外で売る。水谷は海外でも幅広く土木工事をしているから、そこで使うために日本から大量の重機を持ち込む。しかし海外の工事で使ったその重機は、日本へは持って帰れへん。海外で処分せんならんのや。だから自然と不要になった重機が出てくる。それを、工事をした現地で売るわけや」

重機売買で裏金づくり

 ブルドーザーやパワーショベルなど建設重機の売買は、特殊な取引だという。国内で重機メーカーから新車を購入できるのは、建設現場に携わっている土木業者に限られる。重機を購入し、建設現場で扱うのが水谷建設や宮本組などの重機土木建設業者である。重機土木業者は一台あたり数千万円から数億円する新車重機をローンで購入し、その重機一台一台がGPS(全地球測位システム)で管理され、どこで使われるのか、工事現場まで特定されているという。その新車重機が中古になれば、海外で売り飛ばすわけだ。むろん売買において新車と中古車では取り扱いが異なるが、日本の重機は海外ですこぶる評判がいいという。

©iStock.com

「海外の工事に使う中古建設重機のオークションが、シンガポールなどでおこなわれるんや。それが大盛況だったと聞いています。安く買いたたかれた中古重機が、アフリカなど発展途上国のインフラ整備で活躍する。そんな仕組みになっていますんや。中東のドバイなんかは、00年代に入ってから、日本のゼネコンがそろって開発に乗り出した。そこで、重機が飛ぶように売れたらしい」

 裏金を運んできた水谷の側近業者(前出)が、そう説明してくれた。こう続ける。

「そんな重機取引のなかでも、水谷の重機はとくに評判がいい。中古といっても新品と変わらんくらいメンテナンスが行き届き、部品整備士によるアフターサービスまでガッチリつけてやるからね。整備士はスリランカ人が多かったけど、日本で研修を受けさせて働かせる。彼らは暑さにも強いし、日本人以上に必死に働く。向こうに行ってみると、太陽の日差しで熱くなった石ころの上を裸足で歩きまわり、一生懸命に働いとるで」