重機ブローカーが果たした役割
「彼らは重機売買の単なる出入り業者ではありません。取引のときに生まれた裏金をプールする役割まで担っています。水谷建設から重機を買ったときの表向きの価格は、減価償却した後の帳簿価格ですから、それをいったん水谷建設の口座に振り込む。本当の買値はもっと高いので、その差額分をブローカーが自分の会社でプールし、管理しておくのです。それらはすべて水谷会長の指示ですから、彼らにはリスクも罪の意識もありません。そうして水谷側で裏金が必要になると、水谷会長から言われるまま資金を引き出してキックバックする。そういう役割です」
たとえば新車価格1億円のブルドーザーを重機ブローカーが中古車として8000万円で買うとする。ブローカーの1000万円の仲介マージンを乗せ、オークションに9000万円で出せばブローカーも儲かる。その重機ブローカーは本来、水谷建設側に買値の8000万円を支払う義務があるが、簿価の4000万円だけを振り込み、指示どおり残り4000万円を手元に置いてプールしておく。そうして水谷の必要に応じて、そのプール金から裏金を引き出すという。それが彼らの役割である。
水谷功が06年7月に脱税事件で逮捕されたとき、北アフリカのアルジェリア帰りだったのは、本連載で触れた。アルジェリアからフランスへ渡り、捜査の様子をうかがいながら帰国し、羽田空港で東京地検特捜部に逮捕された。捜査のさなかにもかかわらず、遠路はるばるアルジェリアまで足を運んだのは、それなりの理由がある。そこで日本のODA絡みの土木工事があったからだ。
福島県知事汚職と研修センター建設の関係
実は脱税事件の捜査渦中のこのときも、先の下請け業者や貿易商社たちがマカオ経由で香港入りしている。水谷建設は当地で高速道路建設に加わった。その後、中古重機を売りさばいている。それが、何のためなのかについては、繰り返すまでもないだろう。大胆不敵というほかない。そのあたりの事情について、先の運び屋の一人に聞いた。
「重機取引は、原則としてドル決済。だからそれを円に換金して日本に持ち込まなあかんでしょ。それが香港で簡単にできる。日本の当局も海外の現場までは査察の手が伸びない。それをうまいこと利用していたんです」
アルジェリアと聞けば、凄惨なテロ事件が生々しい記憶として蘇ってくる。近年、日本のODA事業が活発に行なわれ、水谷建設などのゼネコンがそこに加わってきた。現地のインフラ整備に重機は欠かせない。“ヤナセのベンツ”と称される水谷建設の中古重機の強みである重機オペレーターの養成のため、水谷功はアルジェリアのODA事業に向け、福島県内に研修センターを設置した。福島第二原発の残土を使い、研修センターをつくったことは前に触れた。水谷はそれで助成金詐欺に問われ、やがて東京地検特捜部が福島県知事汚職事件の端緒をつかむ。すでにこのとき地検は水谷の裏金工作について、目星をつけていたといわれる。が、結局、そこは不問に付される。
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