1ページ目から読む
4/5ページ目

減価償却のカラクリ

 大型重機の売買による裏金づくりの仕組みは、少々ややこしい。重機は自動車などと異なり、税法上、新車と中古の明確な違いがある。購入から1年経過し、アワーメーターで2000時間使用した重機でないと、中古品として扱われない。また、重機を扱う土木建設業者に対しても、規制がある。会社が所有する中古重機について、資本金が5000万円未満の企業に限り、半期ごとの決算による30パーセントの減価償却率が認められている。前期、後期を合わせると、実に年間60パーセントという高い償却率だ。

 仮に新品で1億円のブルドーザーがあるとする。それをコマツやキャタピラーといったメーカーから買い、国内のダム建設などに2年以上使う。すると、減価償却され、帳簿上、価格が6割減るので4000万円の簿価になる。

 水谷建設は長年、資本金を4800万円に抑え(書籍発売当時は1億4550万円、現在は5400万円)、この税法上の減価償却システムを裏金づくりに利用してきたのである。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 重機類はメンテナンスが肝心だという。常にしっかり整備されていれば、中古といっても価値は新品と変わらない。つまり、簿価は低くても、実際に売買されるときの値段は、新品とそう変わらない。なかでも水谷建設は、自前で整備工場を持ち、オペレーターやドライバーの研修センターまである。

「業界では水建の中古重機は“ヤナセのベンツ”と言われていますけど、見た目に古い山崎建設のそれは“韓国の現代製”と呼ばれている」(中堅ゼネコン社員)

 国内でそう評価されるほど、水谷建設の重機類はメンテナンスが行き届いているという。むろんそれは海外の土木工事に使用した場合も同じだ。水谷建設の中古重機は、海外で大人気になった。

中古市場を使った「B勘定」操作

 とりわけ2000年代に入り、オイルマネーによる開発に沸いた中東のドバイなどでは、水谷建設に限らず、日本の中古重機が飛ぶように売れた。重機需要が高まり、しぜん値段もつり上がっていく。わけても新車と大差ない水谷建設の中古重機は、新車の8掛け、9掛けで売れた。仮に新車で1億円のブルドーザーだと、8000万円や9000万円で売れる計算だ。

 半面、前述したように税法上、1億円のブルドーザーの帳簿価格は、4000万円でしかない。したがって4000万円で売れたように会計処理すれば、その差額の4000万円なり5000万円なりが宙に浮く。つまるところこれが裏金に化ける仕組みである。こうした裏帳簿取引をB勘定という。

 重機土木専門のゼネコンである水谷建設は、重機を常時1000台以上抱えてきた。それらをできる限り新しいうちに売りさばいてきたという。たとえば大手や準大手ゼネコンの下請けとしてODA事業に参加し、海外に新品のブルドーザーを持ち込む。それを何年か使い、重機オークションに出す。とくに水谷建設の重機類は高値で売れるため、純粋に経理効率から見ても、そのほうが得策だ。そして、同時に裏金まで捻出できるという寸法である。

 そんな中古重機を中古市場に売り出す際は、たいてい重機ブローカーと呼ばれる貿易商の手に委ねられる。水谷建設からいったんキャッシュで重機を買い、オークションで転売する役割だ。水谷功の側近の一人が、その重機ブローカーについて説明してくれた。