風俗経営者に抜擢した「上海で警官をやっていた男」
そのようにして5、6人さらったところ、その中に中国・上海で警官をやっていた男がいました。とても頭がよかったです。警官時代は、麻薬絡みの案件で数多くの現場に踏み込んだといいますが、麻薬乱用の現場には大抵女性がいるものです。見逃す代わりにそうした女性の顔写真と連絡先を控えており、警察を辞して日本に来てからは、それを脅しのネタにして売春婦として働かせていたのでした。
彼の身柄をさらい、ひとしきり尋問をして情報を得た後、彼の家に行きました。そこで彼をどのように処理するかを検討していたのですが、突然口を開き、彼はこう言ったのです。
「規模の大きな経営をするなら経験者が必要だ。私を店長として雇ってほしい」
私は「どうやってあなたを信用すればいいのだ」と尋ねました。すると即座に「私は怒羅権という組織がどこまでやるかを知っている。すでに中国の家族の名や住所もあなたに知られている。裏切れるわけがない」と言いました。
頭の回転もさることながら、殺される直前の状況で「自分を雇え」という肝の太さが気に入りました。彼を中心に、中国本土から呼び寄せた女性を使って、いくつもの風俗店を経営していくことになりました。
「メンバーの仲裁」「裏切り者の粛清」も担当していた
ところで、私は怒羅権においてメンバー同士の仲裁や、場合によっては裏切り者を粛清する役割を担っていました。いま振り返ると、そうした特異な役割を担えた理由の1つは裏社会における広い人脈と情報網があったためだと思います。とくに風俗店を経営していたのは強みでした。
例えば、風俗店のネットワークはお尋ね者を見つけ出すのにとても役に立つのです。
犯罪を生業とする者は、身の危険が迫ると決まってすることが2つあります。姿を消すこと、携帯電話を変えることです。しかし、男というのは因果なもので、自分の行きつけの風俗店には携帯電話の変更を伝えることが多いのです。そうした人々は大抵お金だけはたくさんあるので、東京の風俗店から大阪まで女性を呼びつけるというようなこともままあります。私のもとには、そうした情報が次々と入ってきました。
お尋ね者は大きく2種類に分かれました。1つは金を持ち逃げしていて、組織は金を取り戻したいと考えているケース、もう1つは報復などの理由で組織が殺したいと考えているケースです。後者の場合、そのお尋ね者の金は私の懐に入ったため、非常に割のいいビジネスになりました。