密入国ブローカー「蛇頭」との関係
怒羅権のシノギの話題になると、同じ中国系ということで蛇頭との関係性を尋ねられることがあります。怒羅権と蛇頭は完全に別の存在ですが、怒羅権がマフィア化し始めた90年代、両者は協力関係にありました。具体的には、蛇頭が日本に密入国させた中国人たちの一部を、私たちが一時的に管理していたのです。
蛇頭は90年頃から活動し始めた密入国ブローカーの総称です。ある種類の蛇は泳ぐときに水面から頭を出すのですが、昔は密入国する者はみんな泳いで国境を越えたことから、それになぞらえて「蛇頭(スネークヘッド)」と呼ばれるようになったのだといいます。
ただ、蛇頭を日本の暴力団のような1つの組織として捉えてしまうと、その実態を正しく理解できないかもしれません。
密入国には、中国本土からの送り出し、海上での輸送、相手国での出迎えなど、さまざまな役割分担があります。そしてその役割ごとに異なる組織が担当しており、例えば送り出し担当と出迎え担当では面識すらないのがほとんどです。つまり蛇頭というのは組織名というよりネットワークの名前だと考えるとわかりやすいと思います。
コンテナにぎゅうぎゅう詰め。餓死や“蒸し焼き”も
私が蛇頭のビジネスに関わったのは90年代の前半のことでした。
当時、蛇頭は1つのコンテナに30~50人くらいをぎゅうぎゅう詰めにして中国から日本へと運んでいました。まだアメリカ同時多発テロ(9・11)が起こる前で、どの国も港の貨物のチェックは甘く、X線検査機を備えた港すらほとんどないような時代だからできたのでしょう。
コンテナの中は地獄だったと聞きます。ブローカーたちは詳しい説明などしませんから、日本まで何日かかるかもわからず、十分な食料すら持たずにコンテナに乗り込む中国人が大勢いたそうです。
中国から日本までは1週間もあれば到着しますが、問題は到着してもすぐにコンテナを開けてもらえるとは限らないことです。運が悪いと、タンカーからの積み下ろしのときに前後左右上下を他のコンテナで囲まれるようにされてしまい、出迎え担当が手を出せないうちに餓死するということもありました。また、タンカーで海上輸送されるとき、最上段に積まれてしまい、直射日光に熱されて全員が蒸し焼きになることもあったそうです。