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「将棋を教えるには技術が必要」現役を引退した高橋和女流三段が“天職”と向き合うまで

高橋和女流三段インタビュー #2

2021/03/30
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ドラマチックなご縁もありました

 東京・吉祥寺駅のそばに「将棋の森」を立ち上げたのは2016年。「shogiotome」「shogimadame」の他、自宅で始めた子ども教室「(しょうぎ)テラコヤ」を「将棋の森」にまとめて、道場も始めました。

 最初は自分の貯金で立ち上げようと思っていたのですが、クラウドファンディングにすれば宣伝にもなるというアドバイスもあって、やってみることにしました。息子と同じ幼稚園の先輩パパでもある渡辺明名人や野球解説者の古田敦也さん、たくさんの協力で豪華なリターンを用意できた結果、350万円以上集まりました。開業資金をまかなうことができ、皆さんに感謝しています。

 

 ドラマチックなご縁もありました。借りる物件を決めた日、ノーメイクで1人ランチをしていたら声をかけてくれた将棋ファンの方がいて、名刺をいただいたら「内装デザイナー」。「すごい偶然!」と「将棋の森」のことを話すと手伝ってくれることになりました。森をイメージした明るくておしゃれな内装にしたいけれど「予算はこれしかない」と相談すると、「うーん」と言いながら、他の物件で余った壁紙の端材を工夫して、いろいろな種類の木や草のように、素敵に貼り合わせてくれました。

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「将棋の森」では、プロ棋士を招いての単発講座もやっています。一番人気だったのは渡辺名人の「2019年の序盤戦術と来年はこうなる戦法振り返り講座」でしょうか。渡辺名人は、はっきりした物言いでトークが面白い。レジュメも作ってきてくれました。

「そんな発想は1ミリもなかった!」と感心

「shogiotome」の生徒さんは観る将が多く、プロ棋界に詳しい。むしろ私が情報を教えてもらっています。永瀬拓矢王座ファンの方に「永瀬先生が解説で『夏は仕事が少ない』とおっしゃっていました。絶対定員は埋まります。ぜひ呼んでください」なんて言われ、メールを出して講座をお願いしたら、引き受けていただいたこともありました。親しい先生でなくても当たって砕けろの気持ちで、どんどんお願いをしています。

 生徒さんのおしゃべりは新鮮。バレンタイン前には、ファンの年齢関係なく、推し棋士にチョコレートを贈る話で盛り上がっていていい感じ。「○○先生(若手棋士)に直接渡す機会もあるけれど、連盟に送る。職員さんが先生別のチョコの数を数えて○○先生の人気があるのが分かれば、解説などの仕事が増えるかもしれないから」と言っていて、「そんな発想は1ミリもなかった!」と感心してしまいました。

「将棋の森」の教室には棋士の色紙は飾られてないが、対局用の椅子を裏返すとサインがある。こちらは藤井猛九段のもの

 昔は将棋界に今のようなプレゼント文化はなく、私もいただいたことはそんなにありません。高見泰地七段と将棋まつりでご一緒したら、両手いっぱいプレゼントの袋を持って控室に戻ってきて衝撃でした。女性ファンが増えて将棋の世界が変わりましたね。将棋ファンは指せないとダメだったのが、観るだけでも良いとなったのはここ5~10年の話だと思います。