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「将棋を教えるには技術が必要」現役を引退した高橋和女流三段が“天職”と向き合うまで

高橋和女流三段インタビュー #2

2021/03/30
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 引退後の高橋和女流三段は、教えるプロとしてやりたかったことを次々に実現していく。女性向け将棋教室の「shogiotome」、幼い子どもが無理なく将棋を覚えていく「まなび将棋」、観る将ファンも楽しく参加できるプロ棋士を呼んでの講座。特に女性への将棋普及は高く評価されて、昨年「東京将棋記者会賞」を受賞した。

 おじさん中心で、女性が参入するには少々敷居が高かった将棋を指す場を、入りやすいイメージに変え、たくさんの女性が集まった。インタビュー後半では「1日10時間は仕事をしているけれど、楽しい」と語る現在の日々と、クラウドファンディングでスタートしたおしゃれな将棋スペース「将棋の森」について聞いてみた。

高橋和女流三段(たかはし やまと)
1976年、神奈川県藤沢市生まれ。1991年、14歳で女流2級。1994年に女流名人戦A級リーグ入りで女流初段。2005年に現役引退。2016年に「将棋の森」を立ち上げた。著書に『女流棋士』(講談社)、『女流棋士のONとOFF』(中央公論新社)、『頭の良い子は将棋で育つ』(幻冬舎)など。

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女性向けの将棋教室をオープン。びっくりするほどの反響が

 息子の成長とともに仕事を増やし、2012年に下北沢のベーカリーカフェを借りて、働く女性が仕事帰りに通える夜の女性教室を立ち上げました。名称は女性向けと分かるように、でも女子ではダサい。思いついたのが乙女で「shogiotome」にしました。若い方を対象にしたつもりはなくて、これまでには70代の方もいます。

 当時、漫画『3月のライオン』で、将棋に興味を持つ女性が増えていたのです。主にツイッターでPR。『3月のライオン』作者の羽海野チカさんもリツイートしてくれました。びっくりするほどの反響があり、定員はすぐに埋まって、講座を増やしてもまだ足りない。次の募集を待っていただく方もでるくらいでした。

 将棋をちょっとやってみたいライトな方はたくさんいるけれど、難しいイメージがあるから最初の一歩を踏み出しづらい。まったくの未経験の女性を対象にしたことで、敷居を低くできたと思います。ルールを覚えて1局指せるようになったら、次の目標は5級。それくらいあれば、将棋番組などのプロ棋士の解説がなんとなくでも理解でき、将棋を観るにしてもより楽しむことできるからです。

「shogiotome」を始めるとき、ある棋士に「女性同士は大変だよ、トラブルとかあるかもよ」と言われました。今年で9年ですが、そんなことは一度もありません。みんな仲が良くて、後から入会してきた人も、優しく輪に入れてくれます。将棋を通して友情が生まれるのを見て、とても嬉しく思いました。

 少し強くなってきてLPSAが主催する女性5人の団体戦に参加しようと呼びかけると、長女、次女、三女……と6チームくらいできました。生徒さんもチームに迷惑をかけるわけにいかないと考えて「私、練習します」なんて言い出して、「しめしめ」と思いました(笑)。女性はチームになると強いんです。大会には応援に行き、生徒さんの課題も観察しています。主婦(マダム)向けに平日午前の「shogimadame」教室も作りました。

 昨年、女性への普及を進めたということで「東京将棋記者会賞」をいただき、私でいいのかと驚きました。たくさんの女性が、私の教室に来て将棋を楽しんでくれている。そんな彼女たちが評価されたのだと、ありがたくいただくことにしました。