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「将棋を教えるには技術が必要」現役を引退した高橋和女流三段が“天職”と向き合うまで

高橋和女流三段インタビュー #2

2021/03/30
note

伸びる時期は子どもによって違います

 親御さんを見ていて気になるのは、かけた時間やお金に見合う効果を期待しすぎているのではないかということ。せっかく将棋大会に連れて行ったのに良い結果が出ないことを嘆くとか。負けたことも良い経験です。子どもが宿題をやっているかとか、関心は持って欲しいけれど、勝負については気にしないのが良いと思います。また、あの子のほうが後から入ったのに級が上とか、他の子と比較も良くない。伸びる時期は子どもによって違います。

 家で詰将棋をやるとか、コツコツ取り組むことは上達につながります。お勧めしたいのは、小さなニンジンでやる気を出させること。この問題を解けたらアイスを食べようとか、いつものおやつをご褒美に変えてしまうだけでも「やるやる」と食い付いてきます。子どもは収集癖があるので、シールも効果的。カードを作ってこの問題を解いたら1枚貼るとか。「テラコヤ」では昇級すると級ごとに色の違うキーホルダーをあげていて、子どもたちはカバンにジャラジャラつけて「俺、こんなに持ってる」と得意気です。

 

初段になるには壁がある

 現役だったころ、小学生だった里見香奈女流四冠に「強くなるにはどうしたらいいですか?」とイベントで質問されたことがあります。私は「毎日3問必ず詰将棋を解くこと」を勧め、必ずやると指切りげんまんもしました。毎日、休まずに続けるのは3問でも大変なこと。しかし里見さんは10問の詰将棋を休まずにやって強くなり「毎日詰将棋をしています。大会で優勝しました」とハガキもいただきました。

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 ずっと後になって、奨励会三段に上がった里見さんが体調を崩しお休みしたことがあります。私も、心と体の不調に苦しんだ経験があるので、私のアドバイスは、里見さんを苦しいプロの道に向かわせてしまったのではないかと心配になりました。メールを送ったところ「私は将棋が大好きで、アドバイスが良くなかったことはまったくない」という返信が来てほっとしました。小学生の里見さんからもらったハガキは見つからず、お宝をなくしてしまったみたいで残念です。

 里見さんの努力は別格としても、なんとなく将棋を続けているだけでは、なれるのは5級くらいまで。よく楽して初段になりたいと聞きますが、「それは無理!」と言っています。

 もちろん、人によって差はあります。プロ棋士の皆さんに「初段にどうやってなったか覚えていますか」とよく質問しますが、たいてい覚えていません。天才は幼くしてすぐに初段になって、普通の人が初段になかなかなれずに悩んでいることが理解できないのです。

 私は、そんな天才ではありませんでしたから、5級や初段に壁があるのが分かります。