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「将棋を教えるには技術が必要」現役を引退した高橋和女流三段が“天職”と向き合うまで

高橋和女流三段インタビュー #2

2021/03/30
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 私が担当する大人が初段を目指す「森の特訓教室」では生徒さん同士でリーグ戦をやってもらい、その棋譜を私が添削しています。大人は仕事もあるし「忙しかった」とか言い訳したくなるじゃないですか。つい「寝る時間を削れば」と言ってしまい、「厳しい和先生」なんて言われちゃうわけですよ(笑)。私にできるのはアドバイスまでで、やるかやらないか、初段になれるかなれないかは本人次第。熱心な人は上達します。

 実は今、バックギャモンが趣味で、プロの先生に一人の生徒としてレッスンを受けています。先生に「これ、この前も説明しましたよね」と言われ、「いいえ、初めて聞きました」と真顔で答えるのですが、レッスン用のノートをめくってみると、ちゃんと自分で書いている(笑)。我ながらダメな生徒です。「自分の生徒さんには何度でも優しく説明しよう」と誓いました。

楽しさを学び、その楽しさを教える側になってくれたら

 将棋の森がスタートしたときは、事務仕事も私1人でやっていました。やがて手が回らなくなって「shogiotome」の方やママ友など信頼できる人に社員やアルバイトになってもらい、今は一応社長の私と3人のスタッフがいて全員女性です。それぞれ森っぽく「モリビト」「コビト1号」「コビト2号」と名前をつけています。

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 自宅に帰って夕食がすんだら、また教材作りや棋譜添削など仕事タイム。少なくても1日10時間働いて完全休日はないです。子どものころ足の手術で入院したとき、6人部屋で1人だったことがあります。暇で仕方なかったことを思い出すと、「忙しいのはなんて幸せだろう」と心から思います。事故の経験が人生に役立っていることはたくさんある。それに「次はこんな講座を」とか、やりたいことが次々でてきます。仕事だけど「楽しい」ほうが勝っています。

 新型コロナウイルス感染症の流行で、昨年の4~5月には、すべての教室をお休みしました。入るお金がなくても、家賃は払い続けなければいけない。自分の貯金から資金を入れたりしました。6月からオンラインでの教室をスタート。動画作成や、WEBカメラを使っての授業生配信など勉強しました。今は、オンラインと対面併用です。「shogiotome」に愛知の方が入会したり、対面では無理な方も参加できるようになりました。感染症の流行が治まってもオンラインはやめません。全国から参加してもらえる企画を考えたりしたいです。

 10年後、私は50代半ばで、もしかするといろいろできなくなっているかもしれません。そんなとき「テラコヤ」で学んだ子が、お兄さん先生になって戻ってきて、「しょうがないなあ」と言いながら手伝ってくれるといいなと思っています。自分が「テラコヤ」で将棋を習って楽しかったから、そんな楽しさを伝えたいなと、今度は教える側に回ろうと思ってくれたら一番嬉しいですね。

写真=榎本麻美/文藝春秋

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 この記事の筆者・宮田聖子さんは文春将棋ムック『読む将棋2021』にも寄稿しています。

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