お子さんが「金」の駒を見て「大きなお屋根がある」
私も子どもたちとのやりとりを通じて、「将棋を教える技術」を常にアップデートしています。「将棋の森」に来るのは基本的には幼稚園年長から。字が読めない子もいるので、漢字は難しい。お子さんが「金」の駒を見て「大きなお屋根がある」と言うのを見て「小さい子には屋根に見えるのか。いただき!」。他のお子さんたちにも「大きなお屋根がある駒を探してごらん」と言ったら、みんな「金」が分かるように。子どもたちの反応から、学ぶことはたくさんあります。
「テラコヤ」は週に5回あり、都合の良い曜日のコースに通っていただきます。私1人では手が回らないので、棋士、女流棋士の方にも講師をお願いしています。他の教室などで教えていたところを見て、楽しく教える技術があり、「この先生の言うことを守ろう」と思わせるような先生に声をかけました。
大学将棋部員のアルバイトさんには「森のお兄さん先生」としてアシスタント的に入ってもらっています。最初に来た日には、子どもたちの多数決で「シロクマ先生」「カモシカ先生」など「森ネーム」を決めます。「シマウマ先生」はその日、白黒ボーダーのシャツを着ていたため決まってしまいました(笑)。子どもたちが名前をつけることで、楽しんで呼んでもらえます。
プロを育てるのではなく、「将棋を楽しむ人」を育てる
私はプロ棋士を育てようとは考えていません。それは、他の人がすでにやっているから。プロを目指すような才能がある子には、よその教室や研修会を勧めていますよ。すぐに上達する子ではなく、どんな子でも無理なく理解できるような教え方を目指しています。楽しんでいるかどうか、子どもたちの顔を見れば分かるし、楽しくないと集中できません。ずっと将棋を続ける子ばかりではない。でも、辞めてしまっても、楽しかった思い出があれば、また大人になって将棋に触れる日が来ると思っています。
集中できるように工夫はしていても、うるさくしてしまうお子さんはいますね。私の息子も小さい頃はわんぱくでした。大崎はまったく怒らないので、私が怒ってきて、そんな経験が役立つこともあります。「うちの子がうるさくして迷惑かけないか心配で」というお母さんには「大丈夫です。キュっと締めときます(笑)」と言って安心してもらいます。うるさくすると「森にはルールがあり、守れないなら帰っていいよ」と言いますね。態度は急には良くならない。でも、何回もうるさくしていたお子さんが、急にお兄さんになって、他の子に「ちょっと静かにしろよ」なんて注意を始めたりする。「君が言う?」なんてあきれつつ(笑)、子どもの成長が見られて、この仕事をやっていて良かったと思う瞬間です。