字は人を表す?
「そうねぇ、支払いが遅れそうなお客さまの特徴ねぇ……」
私のしつこい嘆願に折れて、K藤先輩は昔、消費者金融の店舗で審査をしていたときのことを話してくれました。カードの審査には、前提として会社が設定した審査基準があります。必要項目をパソコンに打ち込んでいくと機械が勝手に診断してくれるのです。でも、会社によってはそこで審査が通っても、お客さまの印象や情報などから融資を断ったり減額したりすることもあるのです。
「まぁ、まずは申込書かな。記入する欄を間違えて書いていたり、字が読めないほど汚かったりすると、うちの店長は融資が通っても金額を低くしていたわね」
特に申込書の欄を間違えて、とんでもないところに名前を書いたりするお客さまは延滞する確率が高かったのだとか。おおざっぱさが字に出るってことですかねぇ、とうなずく私に、K藤先輩は灰皿にたばこを押しつけつつ呟きます。
「字はけっこうその人を表すわよ。まぁ今はネットや携帯での申し込みが多いから、直接手書き文字を見る機会も減ったけどね」
そうなのです。最近のカードやキャッシングはインターネットからの申し込みがほとんど。ネットで申し込みをする場合、申込書は手書きではないので、お客さまの筆跡を見ることはできません。でも考えてみれば、それはお客さまを見極める機会の大きな損失なのかもしれません。
「あ、あと借金は伝染る。だからその人の周りにお金を借りている人がいないかは、よく見ること。電話での督促ではそれは難しいかもしれないけど」
「う、伝染る⁉」
大変怖い話ですが、借金をしている人の周りの人々、つまり家族や友人には同じく借金をしている人が多いのだとか。
そして、たとえ知り合いではなくても、隣人がお金を借りている場合も危ないのだそう。だからK藤先輩は回収に行く際には、必ず周囲のお宅のポストもチェックしたそうです。貸金業者のチラシがポストに溜まっていたり、隣室のポストに督促状が詰まっている場合は危険信号なのだとか。
「まぁ後は、当然のことだけど、他の会社に借り入れや支払いが多いと延滞する確率は高くなるわね。キャッシングだけじゃなく、車のローンや公共料金、税金とか」
悲しいですがクレジットカードの支払いは税金や公共料金よりは後に回されがちなのです。
「でも、他社に借り入れがあるかどうかってどうやって知るんですか?」
「それこそ電話で聞き出すスキルでしょうが! 交渉しながらさりげなく聞きだすのよ!」
勝負の行方
「で、どうなの? 女の戦いには勝てそう?」
「ばっちりです! これでもう負けませんよ~」
私はがっしりと居酒屋の伝票を握りしめました。K藤先輩に焼酎をボトルで空けられたのは痛かったですが、これで来月の成績も安泰です。コブのお礼は必ずするぞー!と私は意気込んで帰りました。
で、その後の私と彼女の関係はというと、その次の月に入社してきた派遣社員に、二人とも回収金額を抜かされ完敗。彼女との間にはライバルとしてほのかな友情が生まれつつあります。
めでたし、めでたし……?