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金額が聞き取れず……

 この店にはレジがなく、昔のお店のように、お金をその場で店員さんに渡し、商品を受け取る仕組みです。「○○円です」と八百屋さんは言ったのですが、うまく聞き取れなかった私は「700円かな?」と思って500円玉と百円玉2枚を渡しました。

 八百屋さんは笑って「そんなにいらない」と返してきました。どうやら500円以下だったみたいです。

「レジがない店だと、とたんに買い物が難しくなるんだな」と思った私は、次回からそういうお店では千円札を渡すことにしました。これでもう大丈夫。どこでも買い物ができます。

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リンゴの皮を剥くのは絶対無理

 買い物の次は料理です。

©iStock.com

 右手をうまく動かせなくて危ないので、包丁は左手で持ちます。リンゴの皮を剥くのは絶対に無理なので、旦那や娘に頼みます。だし巻き卵を作る時は、菜箸を左手で持ってかき混ぜたり巻いたりします。

 20代から40代ぐらいまでは、仕事や旅行で海外によく出かけました。旅の楽しみは、日本とは全然違う地元のスーパーに行けること。絆創膏ひとつとってもお国柄が出ておもしろいのですが、特に興味深かったのがドイツの調理器具。大根にセットして取っ手をグルグル回すと、渦巻き状にスライスされて出てくるなど、特別な用途に使う多くの器械が揃っていました。

「どうしてこんなにヘンテコな器械がたくさんあるんだろう? 箸や包丁を使えばいいのに。ドイツには不器用な人が多いのかなあ」

 そう思っていた当時の私は、自分の右手が使えなくなるなんて全然想像していませんでした。右手が不自由になったいまは、菜箸よりもトングをよく使います。なんて便利なのでしょう!

【後編を読む】「エリーゼのために」をピアノで弾きたい…左脳の4分の1が壊死してから10年、人気コラムニストの“挑戦”

※最新話は発売中の「週刊文春WOMAN 2021年 春号」にて掲載。

週刊文春WOMAN vol.9 (2021年 春号)

 

文藝春秋

2021年3月22日 発売