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「エリーゼのために」をピアノで弾きたい…左脳の4分の1が壊死してから10年、人気コラムニストの“挑戦”

「エリーゼのために」をピアノで弾きたい…左脳の4分の1が壊死してから10年、人気コラムニストの“挑戦”

「OL委員会」の人気コラムニストが忽然と姿を消した理由 #8

2021/03/22
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 お化粧すればピカソみたいに。買い物に行ってもお金の計算ができない。でも結構、楽しく過ごしているのです。(全8回の8回目/#1#2#3#4#5#6#7より続く)

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娘の協力のお蔭で、小指の関節が曲がった

 子供が出来て以来、外食はめったにしなくなりましたが、たまーに行きます。娘とふたりのときは、私がうまくしゃべれないので、娘が小学校2年生の時から「オーダー、お願いします」などと、大人のようなもの言いで注文してくれていました。

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清水ちなみさん ©佐藤亘/文藝春秋

 最近もこんなことがありました。娘とふたりでレストランに行き、注文が終わって暇になった娘は、私に問題を出しました。

「テーブルに右手を乗せて、中指だけを上げてごらん」と難しいことを言います。私がやってみると、「中指だけって言ったのに、小指も上がってるよ」と指摘されます。

 私は一生懸命右手の中指だけを動かそうとしますが、どうしても小指も一緒にピコンと立ってしまう。なんだかおかしくなって、ふたりで爆笑しちゃいました。

 娘にはリハビリの知識などないのに、なぜかコツがわかるらしく、次々に課題を出してきます。

「右手を開いて、他の指は動かさずに、人差し指だけを90度に曲げて。はい伸ばして。また曲げて、伸ばして。ほら他の指が動いているよ」

「じゃんけんの問題です。パーはグーを包みます。パーの勝ち? 負け? どっち?」

 まるで理学療法士や言語療法士のようです。

「どうしてリハビリのコツがわかるの?」と聞いてみましたが、「普通、わかるよ」と笑っていました。

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 全然曲がらなかった小指の関節を曲げられるようになったのは半年前。娘の協力のお蔭です。私にとっては10年目の快挙でした。

リハビリでピアノを弾くように

 まだリハビリ病院に入院していた頃、理学療法士の先生から「ピアノはリハビリにすごくいいよ」と教えてもらったので、退院後は、家で時々ピアノを弾くようになりました。

 ピアノは小学校1年から中学2年まで習っていましたが、なにしろ左脳の4分の1が死んでいるので、昔のようにはもちろんいきません。手始めに「ハノン」という子供の頃に習った練習曲をやることにしました。両手が同じ動きをするので、リハビリにはもってこいだと考えたからです。