“憲法改正”については受け身のスタンス
安倍政権時にはあれほどロマンを持って語られた憲法改正も菅首相にかかっては事務的作業の一つであるかのように淡々と語られた。憲法審査会は「日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査する」とされている国会の委員会の一つで、安倍政権時の所信表明では「国会議員の責任として」この場で憲法改正の議論をすることで「歴史的使命を果たす」と熱を持って語られていた場である。他方で、菅首相は「憲法改正も最後は国民が決めるものですから、与野党の枠を超えて建設的に議論して、国民的議論につなげましょう」と国会議員ではなく、国民の側に議論を求めているように見え、憲法改正に関してはどこか受け身のスタンスが垣間見える。憲法改正のような与野党合意が必要となる事項はそのようなスタンスの方が議論が進みやすいだろうし、個人的にも共感するのだが、いずれにしろやはり目の前の政策課題への対処につながらないトピックは菅首相の主たる興味の範疇外なのであろう。
“携帯電話料金の引き下げ”と「自助・共助・公助」
実際菅首相が憲法改正の次に持ってきたテーマは国のあり方という大きな話から真逆にある「携帯電話料金の引き下げ」という身近な財布の中身の話であり、政治運営についても「できるものからすぐに着手し、結果を出して、成果を実感いただきたい」と目前の課題を順次迅速に処理していく意気込みを語った。
政権発足後3ヶ月たった頃から菅首相のこうした意気込みに応える形で、携帯大手は相次いでこれまでのプランに比べて半額を割るような格安プランを公表したわけだが、その割には菅首相の支持は芳しくなく、こうしたミクロな成果の積み上げを繰り返すアプローチだけで首相としての国民からの期待に応えられているかはやや疑問が残る。
それでも演説の構成・バランスの問題で、最後に菅首相は自らが「目指すべき社会像」についてお決まりの「自助・共助・公助」をキーワードに語るわけだが、やはりここで語られる内容も、どこかで聞いたことがあるオリジナリティに欠けるものとなっている。
「自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します。そのため、行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進めます。「国民のために働く内閣」として改革を実現し、新しい時代を、つくり上げてまいります」