「あの頃、オヤジが色々な会合に顔を出していたのは、親しかった田中先生のために他の派閥の政治家の動きを探っていたのかもしれないな。オヤジはテレ朝近くの金谷マンションに自分の部屋を持っていたから、赤坂の会合後は毎日のように僕の車で送って行った。それからオヤジの部屋で話すことも少なくなかったけど、表社会の裏の部分をよく知っていて、清濁併せ呑む人だったよね」
そんな状況下で、中江はある有名な予言者を日本に招待した。もともと超能力というものに興味があったこともあり、ユリ・ゲラーに次いで来日させたのが、ケネディ暗殺予言で有名になった予言者ジーン・ディクソン女史だった。表向きは日本テレビの番組出演だったが、滞在諸経費はまたも中江が出していた。
来日に際しては、赤坂の料亭「佳境亭」で青年会議所の経営者を集めて食事会が開かれた。その会に出席していた三浦が、ジーンに「中曽根政権はどうなりますか?」と聞くと、彼女は「案外、長く続きます」と返答。それを聞いた三浦は喜び勇んで田中に電話で伝え、「中曽根は続くと言っている、すぐに彼女を会わせるから」と言って、その場からジーンを連れて行ってしまったそうだ。
「オヤジや田中先生は中曽根を続投させるかどうか思案していた時だったから、予言者の言葉がよほど嬉しかったんだろうね。実際、続投でそれから中曽根政権は5年続いたから、彼女の予言通りになったわけだ」
名刺代わりに渡していた500万円
永田町に中江の名が知られるようになった頃、中江は名刺代わりに500万円をくれるらしいという噂が広がっていた。それはほぼ事実だったという。
「オヤジに紹介された政治家に金を差し出すことはなかったし、そんなことしたら怒られるよ。むしろオヤジとは関係のない、若手政治家がよく来るようになったね。
兜町の事務所に訪ねてくると、その場で500万円を渡した。現金で渡すと、みんな驚いて目を剥くのが面白かったんだ。ホテルのレストランで会うこともあったし、封筒に入れて渡したり、目の前で札束を並べてみせたりもした。当時はそんな金ぐらい、相場で100万株を買い増せばいい、どうってことないことだったんだ。
訪ねてくる理由は、選挙に出るのでご支援よろしくお願いします、というのが多かった。色々な政治家が挨拶に来たけど、事件になってからは誰からも何の連絡もない。政治家なんてろくなもんじゃない、つくづくそう思ったよ」