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地獄の日々から引きずり出してくれた人
今、蜃気楼さんは25歳になった。
お母さんのいる実家には結婚してから一度も帰っていない。いまだにX社会員であるお母さんと、うまくコミュニケーションを取る自信がないからだ。「それ以前に、勧誘をされるかもしれない恐怖があるんですけどね」と言う。
「いろいろありましたが、今こうやって温かい部屋で冷静に過去を振り返る余裕があるのも、すべて旦那のおかげです」
蜃気楼さんには小学生の頃から好きだった人がいた。それが今の旦那さんだ。マルチ商法の地獄の日々から引きずり出してくれたのも旦那さんだった。
「旦那とは高校2年のときからつきあいはじめました。旦那には母のことX社のこと、ぜんぶ話しました。後で知られて嫌われるくらいなら先に話したかった。私の置かれている状況を知った旦那は、私を守るために毎日家に遊びに来てくれました。それだけで母は私に手を出せなくなりました」
高校生で恋人がマルチ商法で苦しんでいることを理解していることに感心した。僕が高校生のとき、そんなふうに誰かがしんどい状況にいることを思いやったことがあっただろうか。
「旦那のご両親には『まだ高校生なんだから、あんまり遅い時間までお邪魔しちゃ駄目よ』とお叱りを頂いてましたが、『将来絶対に結婚するから、今からお互いのことをいっぱい話したい』とゴリ押しして許してもらっていました。それで私は高校時代を比較的安心して過ごすことができたんです。そして私は家から出ていくために、寮のある会社に就職し、3年間そこで一生懸命働きました」