女性が性について語りにくい雰囲気がある
──性においてイニシアティブを握っているのは常に男性で、女性は性的に開発される側だという、根強いファンタジーが世間一般にあるように思います。
実生活では男性のパートナーと対等でありたいという女性でも、性のことになると「やっぱり」攻めて来て欲しい、っていう人はわりと多いように感じます。その人の性癖や好みと一致しているのであれば、それはそれで最高だと思うのですが、でもそれ以前の問題として、女性がおおっぴらに性のことを話せない雰囲気や状況があるじゃないですか。そもそもどういう嗜好なのかも言えないという。
──女性には男性のような性欲はないと思い込んでいる男性もいます。女性の性欲が語られない限り、ないものとされかねない危険性がありますね。
いけだたかし先生の『時計じかけの姉』(幻冬舎コミックス)という作品がすごい好きなんですが、読んだときに衝撃的だったのが、女の人の性的な欲動みたいなものを描きながら、エンタメとして成立していたところだったんですね。今の世の中、けっこうな割合の女の人が、男性の側から積極的に来て欲しいって思っているかもしれないですけど、一方では性に貪欲になりたい気持ちを持っている女性も多いのかなとも思ったんです。
「(女性が)抱く」の本質的な意味とは
──そうした意識はタイトルにも表れていますよね。『抱いちゃダメですか?』というのは誰に対する投げかけなんでしょうか?
第一には主人公の相手である篠宮に聞いてるんですけど、あとはマンガをよく読む方に向けてですかね。
──やはり「抱く」という言葉は男性のものという固定観念が強いように思いますが、実際のところは……。
以前にテレビでとある人気YouTuberの女性が動画を撮っているときに、「今日これから男を抱いてきます!」みたいなことを言っているのを見て驚いたことがあります。それとは別にBLの世界で、腐女子が自分の好きなカップルの受けを「抱きたい!」と言うようなことも全然普通にあったりするんですよね。
──しかしそれはあくまでも女性の内輪の言葉であって、男性に向けて放たれる言葉ではありません。
そうなんですよね。まだかなり特殊な用法です。
──「抱く」という言葉に関しては作中でも突き詰めていらっしゃいます。
原稿が仕上がったあと、ネームを調整するときに、担当さんからよく「『抱く』って言葉使いすぎてるんで!」って言われます(笑)。ゲシュタルト崩壊して、「どういう意味かわからなくなってきちゃいました」って(笑)。第4話で美月にも「『抱く』ってことをよくわかってなかった」って言わせたりもしてるんですよね。「抱く」のは挿入する行為を指しているのか、それとももっと精神的な主導権の有り様を指しているのか……。実は描いてる側もわかってないんです、ってことを出してこうと思って。