女性だと「性犯罪」、男性だと「浮気」のナゼ
──よしながふみ先生の『大奥』(白泉社)的な発想ですね。
そうかもしれません! 今でもずっと考えているのが、2巻の第9話で、篠宮の元カノが篠宮の家に押し入って、強引に迫ってくるシーンに関してです。これ、篠宮が男性だから、「すわ浮気か?」みたいな流れにつながっていきますが、性別が逆だったら、女の子が元カレにストーカーされて……っていう、もはや警察沙汰のお話じゃないですか。とはいえ篠宮側が強く出て、たとえば元カノを突き飛ばしたりすると怪我させちゃいそうだし、困ってしまいますよね。
この難しい感情や状況は、もうちょっと描いてあげたほうが良かったのではと反省しています。読者の声としては、女子目線で「もうあと一歩で浮気じゃん!」と、むっとしている方が多かったんですけど、逆の立場になったらどう思うのか、と思ってもらえるところまで描けたらよかったと思いました。
──現実世界でも男性が性被害に遭う事態はなかなか認めてもらえません。このあたりにも「男らしさ」の呪縛を感じます。
女性の生きづらさみたいなことは、今、多くの作品で描かれていると思うんですけど、押見修造先生の『血の轍』(小学館)が描いてるようなこと、たとえば男性が男性に生まれたことの戸惑いとか、おそらく少年から大人になっていく二次性徴の戸惑いみたいなものを描く作品が、もっとあってもいいのになと思っています。
──そうした丁寧な姿勢は読者の方にもしっかり伝わっているのでは?
4話目くらいのときに、「『普通じゃない』っていうことを丁寧に描く話なのかな」っていうコメントをいただいて、そこに「いいね!」がたくさんついていました。実は自分の中ではもっと丁寧にやるべきだったと思うところもけっこうあるんです。でもエンタメとしてテンポの良さも守っていきたい。葛藤しているところはありますね。