「早く寝たかったから先に蹴った」
「タイマンは基本1対1の喧嘩で、公園とか駐車場でやるんですが、野次馬がたくさんいて手を出してくることもあるんですよね」
こちらがひとりだったこともあって危険を感じはしたが、「めんどくさかった」ので動きやすいスウェットに着替えて、番長一味と近くの公園へ向かった。
相手はやはり動きやすいジャージを着て、足には中学校の上履きを履いていた。
「普通の靴で蹴ると相手に怪我をさせてしまうから、上履きを履いていたわけ?」
「えっ、タイマンにそういう配慮はないでしょ。上履きは動きやすいからですよ。どうせ脱げちゃうんだけど、動きやすい格好で来たってことは本気だってことです」
公園で番長と向き合うと、番長が「先に蹴ってくれ」と頼んできた。
「警察に捕まると、先に手を出した方が悪いってことになるんです。だから、先に蹴ってくれって言ったんだと思います。向こうからタイマン張ってくれってお願いされて、なんでこっちが先に蹴らなきゃいけないのって思うでしょ。でも、早く寝たかったから先に蹴ったんです」
河合のキックを合図にいよいよタイマンが始まり、しばらくの間揉み合っていると、なぜか番長の実兄が車で駆けつけてきて、番長を連れて帰ってしまった。相手の方が逃げ出したわけだから、結果は河合の勝ち。家に帰ると、妹が「血だらけだよ」と言う。耳のピアスが無くなっていた。
少年院を出たら「タイマン張り直せ」と連絡が
河合はこのタイマンの後、別件で逮捕されて少年院送致になるのだが、少年院から出てくると、すぐに鴨居の番長から連絡があった。
「知ら番(知らない電話番号)から電話が入って、もう一度張り直してくれって言うんだけど、少年院は仮退院だから無理だって断ったんです。タイマンなんか張ったらすぐに戻されちゃいますからね」
河合ほどの大物に「無理だ」と言わせる少年院とは、いったいいかなる施設なのか、今度はこちらに興味がわいた。
少年院に入るまでは、逮捕→留置場→検察(検事による取り調べ)→鑑別所→少年審判→少年院という経路をたどるそうだ。鑑別所は文字通り非行の程度や性格を鑑別する場所であり、鑑別所から少年院に送られるのは一握りだという。