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“街中の店に営業妨害”“喧嘩を売られたらチャンス” 「ドヤ街」で生まれ育った子どもたちの知られざる日常とは

『寿町のひとびと』より #1

2021/03/31
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鑑別所は余裕だったけど、少年院には二度と行きたくない

「鑑別所には1カ月ぐらいいたんですが、貼り絵とかやらされました。細かい作業は好きだったんで3、4枚作りましたね。部屋では座布団に座ってないとダメで、寝っころがると『○○番起きなさい』って注意されるし、テレビも決まった時間しか見られなかったけど、それでも鑑別所は甘かったです。私、鑑別所だけだったら更生できなかったと思います。1カ月とか、余裕でしょって感じでした」

 では、少年院はもっと厳しいところなのか。

 少年院では周囲としゃべったり、笑ったりすることも禁じられ、テレビも教育番組やニュースしか見せてもらえなかったというのだが、程度の差こそあれ、それは鑑別所も同じだ。明らかな違いは内省のためのノートを書かされることと、退院が近づくにつれて進級していくことだ。

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「内省の内容がよくなって違反行為をしないでいると、バッジの色が変わっていくんです。最後は、突然個室に呼ばれて退院準備だよって言われるんですが、そこで違反をすると退院が延びてしまうんですよ」

写真はイメージです ©iStock.com

 内省によって自分の行為を深く反省したから、河合は更生できたのだろうか。

「いや、反省したっていうよりも、厳し過ぎて無理だわっていうのが本音ですね。爪いじるのも、髪の毛いじるのも、眉毛抜くのもダメ。まったく自由がなかったから、もう、二度とあそこには行きたくないと思う。だから更生できたんです。喧嘩は、自分が一歩上になったと思って我慢すればいいんだし、欲しい物は万引きしないで買えばいいし」

悪さをするのは、目立ちたいから。やるだけ名前が上がるから

 河合の話を聞きながら、私には悪さをしたい理由がどうしても理解できなかった。河合はタイマンだけでなく営業妨害もずいぶんやったそうで、伊勢佐木町のたこ焼き屋の壁にファンデーションで自分の名前を大書し、店の前の幟を抜いて振り回して警察に補導されたりしたという。何か欲しい物があって万引きをするのはわからなくもないが、タイマンや営業妨害は、いったい何のためにやるのだろうか。

「目立ちたいからですね。見られてると嬉しいでしょう。タイマンや営業妨害はやればやるだけ名前が上がるし、名前が広まると気持ちいいじゃないですか」

 見られたいのは、寂しかったからだろうか。

「悪さしてる時って、ワーって空を飛んでるみたいに楽しかったな」