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 これ以外にも由紀夫さんは、実母の再婚相手、実姉、高校時代の同級生、同級生の妻、元勤務先の同僚などからカネを借りており、そのすべてが松永と緒方の手に渡っていた。それらの総額は〈少なくとも約1083万円であった〉とされる。なお、ここに出てくる同級生の妻というのが、かつて記した松永らによる監禁致傷、詐欺・強盗の被害者として、一連の公判で「乙女」と称された原武裕子さん(仮名)である。

都合の悪い“ネタ”の念書をとられて

 由紀夫さんが松永らに逆らえなかった理由は、娘の清美さんが“人質”に取られたことだけではなかった。そのことに加え、松永は由紀夫さんの新たな“弱み”を握っていたのである。前々回(第49回)でも触れたが、松永は由紀夫さんを連日のように自宅マンションに呼び出しては飲酒をともにし、酔った彼から会社や家族についての情報を集めていた。そこで収集した由紀夫さんにとって都合の悪い“ネタ”を持ち出して、彼を責め立てたのである。

 その際、松永は「事実関係証明書」という表題で、書面(念書)の記載を由紀夫さんに命じていた。松永は、緒方が実家と揉めていた際にも同様の書類を作成させるなどしており、相手を心理的に服従させる際に突き付ける“物証”として、書面の作成を常に要求していたのである。

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小学生時代の松永太死刑囚(小学校卒業アルバムより)

 そうした書面の存在について、公判での検察側の論告書(以下、論告書)には次のように記されている。

〈松永は、由紀夫に命じて、借用書や、過去の悪事に関する口止め料を支払う旨の書類などを書かせていたが、そうした書面には嘘が書かれていることもあった。また、松永は、由紀夫が緒方に強姦まがいのことをしたとして由紀夫を責めていたが、このとき念書が作成されたかどうかはわからない。

 

 松永が由紀夫に書かせた書面は、合計すると100通ほどあった。しかし、松永は、由紀夫の死亡後間もないころに、これらをすべてシュレッダーにかけて捨てるよう緒方に命じたので、ほとんどは残っていない〉

 論告書では、シュレッダーにかけられず、証拠品として押収できた書面の作成状況についても触れていた。