起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第51回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

一人娘の清美さんを“人質”にとられて

 松永太と緒方純子による広田由紀夫さん(仮名)への搾取は、彼が内妻と暮らす福岡県北九州市門司区の「上二十町マンション」(仮名)を出て、同市小倉北区の「江南町マンション」(仮名)で暮らし始めて間もない1994年7月頃から行われていた。

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 とくにそれが顕著になるのは、同年10月に由紀夫さんの一人娘である清美さん(仮名)を、松永と緒方が月々16万円の養育費を徴収して預かるようになってからだ。実質的に清美さんを“人質”とされたことで、由紀夫さんは松永らに逆らうことができなくなってしまったのである。

 後に福岡地裁小倉支部で開かれた公判での判決文にある、検察側による〈事実認定の補足説明〉(以下、補足説明)には、〈被告人両名(松永と緒方)が由紀夫に多額の現金を要求して工面させ、これを受け取った状況等〉として、以下のようにある。件数が多いためその一部を記す。

由紀夫さんが要求された現金、一部の内容

〈被告人両名は、由紀夫に対し、甲女(清美さん)の養育費として毎月16万円を要求したほか、由紀夫の「片野マンション」(仮名=北九州市小倉北区)での飲食費、生活費等の様々な名目を付けては現金を要求した。由紀夫は、被告人両名に要求されるままに、次のとおり、親族や知人らから多額の現金を工面しては、被告人両名に渡した。

 

 ア 被告人両名は、平成6年(94年)7月27日から平成7年(95年)7月28日までの間、由紀夫に、消費者金融会社から、少なくとも24回にわたり合計約184万円を借り入れさせ、これをすべて受け取った。

 

 イ 被告人両名は、由紀夫に、(当時勤めていた不動産会社)××の同僚である太田修二(仮名)から、(1)平成6年8月か9月ころから同年10月ころまでの間、数回にわたり、合計50万円から60万円を、(2)平成6年11月ころ、合計200万円をそれぞれ借り受けさせ、これをすべて受け取った。

 

 ウ 被告人両名は、由紀夫に、実母である古田千代子(仮名)に対し借入れを申し込ませ、平成6年12月13日から平成7年10月31日までの間、12回にわたり、同人が由紀夫名義の普通預金口座に振り込んだ合計145万5000円をすべて由紀夫から受け取った〉