起訴された案件だけで7人が死亡している「北九州監禁連続殺人事件」。

 もっとも凶悪な事件はなぜ起きたのか。新証言、新資料も含めて、発生当時から取材してきたノンフィクションライターが大きな“謎”を描く(連載第52回)。

北九州監禁連続殺人事件をめぐる人物相関図

由紀夫さんと清美さんが「片野マンション」で受けた仕打ち

 松永太と緒方純子から新たな搾取の対象とされた、福岡県北九州市の不動産会社員・広田由紀夫さん(仮名)。彼はついに1995年2月から、松永らが暮らす北九州市小倉北区の「片野マンション」(仮名)30×号室で、同居させられることになった。

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 前回(第51回)、由紀夫さんは娘の清美さん(仮名)を“人質”にされ、さらに通電による虐待を受けたことで、松永から虚偽の内容を含めた書面(念書)を書かされたことを記した。それは「片野マンション」での同居開始後も続く。その際に、松永は清美さん(文中では一部「甲女」との表現)にも書面を書かせていた。まずは残されていた書面の内容について触れておきたい。

 先に取り上げるのは、福岡地裁小倉支部で開かれた公判での検察側の論告書(以下、論告書)によるものだが、その文中に記載されている通り、書面の内容は、松永が通電等の暴力を使って無理やり書かせた、“事実ではない”ものであることを、あらかじめお断りしておく。また、文中には未成年者に対する性的な表現もあるが、虚偽の内容であることと、松永の犯行の悪質性を顕著に表しているものであるため、原文をそのまま引用する。

由紀夫さんらが監禁されていた片野マンション(仮名)30X号室の見取り図 ©️文藝春秋

「もしもの時には、警察に検さつ庁にこの書類をもって行きます。」

〈平成7年(95年)2月24日、松永は、由紀夫に命じて、由紀夫が甲女(清美さん)に対して性的ないたずらをした旨の事実関係証明書を書かせた。しかし、現実には、甲女は、由紀夫から、同証明書に記載されているような性的ないたずらを受けたことは一切なかったから、この書面の内容も嘘だったが、松永の命令で、甲女は、「お父さんの書いたないようはみんな本当です。」などと書かされた。なお、緒方が、この書面の末尾に、「もしもの時には、警察に検さつ庁(ママ)にこの書類をもって行きます。」と記載していることからも、この書面を作成させた目的が由紀夫に対する支配の確立にあったことは明白である〉

 その内容の概要については、前出の公判の判決文に添付された一覧表(以下、一覧表)において触れられている。なお、松永はこの書面の表題として、「長女甲女(原文では実名)に対して行った性的悪事の数々の事実関係証明書」と書かせていた。