1ページ目から読む
4/4ページ目

「昔は、路上で貝を焼きながら女の子と遊べる店があった」

「昔はね、路上で七輪出して、貝を焼いて売りながら、女の子と遊べるような店がけっこうあったんだってね」

 まさに戦後の闇市、屋台で飯を食わせながら、女を置いていたのと同じ様である。横浜・黄金町は、おでん屋が女を置いていたと聞いている。ここでは海産物の貝だったのだ。

「ここが貝を焼いていたかはわからないけど、旅館だったみたいね。上が部屋だったのよ。昔、何回も人殺しがあったみたいで、夜中によくコトコト音がして気持ち悪かったから、神棚を置いたら止まったのよ。今じゃ人も来ないから、お化けも出てこなくなったのかもしれないけどね」

ADVERTISEMENT

©八木澤高明

「こういう商売はもうダメだね」

 今もかろうじて続く、売春はいつまで続くのだろうか。

「更地になった土地は、市の土地になっていて、こっちはちょっと土地関係が複雑みたいだから、もう少しやれるんじゃないかね。だけど長くはないでしょう。ヤクザが生活保護もらっているような時代だから、こういう商売はもうダメだね。あと3年やれたらいいんじゃないの」

 ちょうど、新幹線が通る頃には、ここもなくなるのではないかと言うのだ。行政からしてみれば、駅からほど近い寂れた売春街は目ざわり以外の何ものでもない。

「時間があったらさ、手紙でも書いてちょうだいよ」

 老婆は店の住所を書いて渡した。

【#1「飛田新地」編から読む】

青線 売春の記憶を刻む旅 (集英社文庫)

八木澤 高明

集英社

2018年10月19日 発売