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「金儲けがうまい人が偉い」という空気…ヤマザキマリ・斎藤幸平が語る「わきまえろ」という圧力の正体

「金儲けがうまい人が偉い」という空気…ヤマザキマリ・斎藤幸平が語る「わきまえろ」という圧力の正体

ヤマザキマリ×斎藤幸平対談

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真の民主主義とはどんなもの?

斎藤 日本の民主主義って結局、「投票権が与えられていること」なんですよね。それは戦後、近隣の中国や韓国、北朝鮮における独裁政権の存在が影響していると思います。「彼らと違い、自分たちには自由な投票権がある。だから民主主義なんだ」と国民の多くが誤解してしまった。本当の民主主義は単に投票するだけじゃなくて、意見が違う人と議論し、ときにはデモや集会で意見を政府に表明し、ぶつかり合いながら落とし所を見つける制度です。

 僕がドイツに留学中の2011年3月、東日本大震災が起きると、福島第一原発の事故はドイツでも大きな関心を集めました。10万人規模の原発反対デモが連日行われ、政府を動かし、6月には国内すべての原発が停止された。デモに参加したのは、ベビーカーを押して子どもを連れているような普通のお父さん、お母さんです。デモの後にはカフェで議論したり、勉強会を行ったりも盛んだった。そうやって社会を動かすんだという感覚が、当たり前に根付いているんです。

福島第一原発の事故を受け、ドイツ国内の原発前でデモをするドイツ人たち  (C)ロイター=共同

海賊や先住民の間には民主主義があった

ヤマザキ オリンピックの組織委員会会長だった森喜朗元首相が、会議で「(女性は)わきまえて」と発言したことが起因で辞任することになりましたが、女性に限らず日本では「わきまえる」ことが常に求められる空気があります。空気を読む、というのもそうだと思うのですが、とにかく言語に置き換えるかわりに、悟ったり察したりしなければならないことだらけなんですよ。 

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斎藤 でもそれって、男性が支配する資本主義の発展のためにはとても都合が良かったんですよね。会社の経営者や上司の言うことに黙って従って、ルールを守って成果を上げる従順な労働者、社畜を大量に生み出すためには、そうした教育がじつに効果的だった。

 本書の中でも引用した『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』を書いたデヴィッド・グレーバーという文化人類学者は、「民主主義の起源はギリシャだと思われているが、それは西洋中心主義に基づく真っ赤な嘘だ」と述べています。ギリシャは中央集権的な奴隷制で、そんな場所で本物の民主主義が育つわけがないという主張です。

 むしろ海賊やアメリカ大陸の先住民といった国家の外部にこそ民主主義が見られる、とグレーバーは書いています。