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ヤマザキ それは海賊や先住民の間には、「平等」が基盤としてあったということですか?

斎藤 はい、誰も圧倒的な力をもっていない集団内では、力でねじ伏せることができないので、民主主義を徹底するしかありません。逆に、平等がない場所に民主主義は生まれません。

 このグレーバーの議論を拡張すれば、現代には民主主義の基盤は存在しないことがわかるでしょう。会社では上司の命令や顧客の意向を最大限忖度し、効率的に実行することだけが求められる。最後はお金の力でねじ伏せることもできます。けれども、それでは民主主義は育ちません。

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左:草稿や研究ノートの発掘が進み、新たな顔が見えてきたカール・マルクス(1818〜1883)(C)共同通信イメージズ
右:文化人類学者でありアクティビストとして社会運動でも活躍したデヴィッド・グレーバー(1961〜2020)(C)Eyevine/アフロ

日本に西洋式の民主主義的構造は合っていないのでは

ヤマザキ 古代のギリシャ人が理想としていたデモクラシーというのは、人間に対して理想過多で非現実的な発想なんじゃないかと思うことがあります。民主主義というのは、地球上で生きている人間がある種の群に属していながらも、各々の個性や価値観の差異を認め合えるようにならなければ、実現など不可能だと思うのです。

 人間が本当に生きやすい、等身大の民主主義社会については、紀元前から様々な問題の耐えない西洋でも未だに議論が続いています。うちの国の民主主義は破綻している、と捉えている人は世界中に沢山います。どんなに時間の経過を経ても、なかなか上手く機能させることのできない社会の仕組みなんでしょうね。

人新世の「資本論」
1020円+税 集英社新書
人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」の時代。著者は自ら発掘した晩年のマルクスの研究ノートを検討しながら、脱成長コミュニズム社会への移行を提唱する。新書大賞2021を受賞。

 私は、このコロナ禍の間、若い頃傾倒していたエリアス・カネッティの『群衆と権力』を再読していたのですが、カネッティは群衆の構造は土地によって差異があり、その特性に即した権力が発生するということを書いています。日本という島国に適したリーダーは、欧米の民主主義的構造で求められているのとは明らかに違うような気がしています。

斎藤 『人新世の「資本論」』では『資本論』で知られるカール・マルクスの再評価を行っているわけですが、マルクスの考える民主主義は、「コミュニズム」が基本です。コミュニズムとは「富」を「コモン」(公共財)として民主的に管理する社会を指します。具体的には水や土地、エネルギーのような環境資源、教育、医療制度など。

 資本主義社会で起きているさまざまな問題は、これら「コモン」を個人や私企業が営利目的で寡占し、必要な人々に行き渡らなくなっていることで起きているとマルクスは考えました。