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連載この鉄道がすごい

きかんしゃトーマスに披露宴列車…“SL列車の老舗”大井川鐵道が再建できた理由とは

きかんしゃトーマスに披露宴列車…“SL列車の老舗”大井川鐵道が再建できた理由とは

フライトツアー、アプト機関庫見学、グルメ駅も誕生

2021/04/04
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事業再生に名乗りを上げた会社はなぜか北海道の……

 再生の契機はもうひとつ。経営体制の改革だ。大井川鐵道は長い間名鉄グループの1社だった。社長は名鉄出身者で、前述の技術者、白井氏が大井川鐵道に移籍した経緯も名鉄から経営再建、合理化の命を受けたからだ。しかし、バブル崩壊、リーマンショックによる金融不況、東日本大震災などの影響で、名鉄自身も経営危機を迎えた。そこで名鉄は全国に展開していたグループ会社から資本を引き上げ、事業の選択と集中を進めた。

 大井川鐵道の経営状況も悪化し、きかんしゃトーマスの成功も焼け石に水だった。2015年に名鉄は大井川鐵道から撤退。すると事業再生に名乗りを上げた会社は、意外にも北海道の静内でホテル事業を営む投資会社「エクリプス日高」だ。北海道の日高地方と言えばサラブレッドの産地。エクリプス日高の主要株主(オーナー)は中央競馬会でも一目置かれる馬主である。だから鉄の馬(蒸気機関車)も手に入れたかったのかな、という冗談も思いつく。

大井川鐵道には、元近鉄の特急車両が普通列車として走る

 この後、大井川鐵道とエクリプス日高は次々に「攻めの改革」を打ち出した。2017年にエクリプス日高は、静岡県で展開する弁当・惣菜店の「天神屋」の経営再建に参加。天神屋は60年以上続く老舗で、こちらも「なぜ北海道の会社が」と話題になった。2018年にはエクリプス日高が東海汽缶を傘下に収め、蒸気機関車の整備、運行体制を盤石にした。

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 大井川鐵道と天神屋の連携は、お土産品のレトルトカレー「SL黒カレー」「赤カレー」から始まり、商業施設の協同展開へ発展していく。2019年に大井川鐵道が指定管理者となった「川根温泉ホテル」のレストラン部門に天神屋が入った。レストランはビュッフェスタイルで、自分で盛り付ける海鮮丼や川根茶を使った料理が特徴だ。ベビーフードも食べ放題でファミリー層に人気がある。川根温泉ホテルは島田市の施設で、SLが見える宿として知られていた。大井川鐵道の参入はSL列車との連携を密にするし、エクリプス日高のホテル経営の手法が生きる。

体験型フードパーク「KADODE OOIGAWA」

 大井川鐵道の駅弁については変わらず「大鉄フード」のままだ。大鉄フードは2014年の経営合理化で東海軒に事業譲渡されているけれども、大井川鐵道と大鉄フードの関係は継続し、伝統的なメニューが残っている。改革するところと守るところをしっかり見極めていると言えそうだ。

 2020年に誕生した緑茶・農業・観光の体験型フードパーク「KADODE OOIGAWA」は、島田市、大井川農業協同組合、大井川鐵道、中日本高速道路の4者連携で設立された。大井川鐵道は隣接地に「門出駅」を設置し、施設内に蒸気機関車「C11 312号機」を整備し保存展示した。隣の駅「五和(ごか)駅」を「合格駅」に改名し、合格駅と門出駅を組み合わせた縁起きっぷを販売している。天神屋も敷地内の「KADODE OOIGAWA マルシェ」に出店し、「しぞーかおでん」「きっぷ焼きかま」などを販売する。

門出駅は「KADODE OOIGAWA」の敷地内にある

 門出駅にはSL列車は停まらないけれども、通過は場内アナウンスで知らせてくれる。プラットホームに隣接したレストランからSLが見えるなんて、かなり魅力的なアトラクションだ。

「農家レストランDa Monde」はビュッフェ形式。野菜を選んで渡すと1分ほどで蒸し野菜にしてくれる
列車が見えるレストランだ