SL観光再生の先頭に立つ「青いアイツ」
大井川鐵道の経営状況は悪化していく。少子高齢化によって沿線の人々の利用は減った。SL観光列車の収益で一般列車の赤字を埋める状態だ。しかし、SLの収益性が危うい。そして2014年、ついに普通列車の大幅減便を決断する。しかし、地域と連携して運行計画を作らなかったため、通学時間帯の列車はゼロ。やむなく、沿線自治体の島田市と川根本町はスクールバスを導入した。リースやバス事業者への委託ではなく、バスを購入している。今後、ダイヤが元通りになっても、通学生は戻ってこないだろう。
島田市は2011年に大井川鐵道のSL観光列車を支援するため、新金谷駅に転車台を設置した。大井川鐵道はいままで転車台が千頭駅にしかなかったため、SL列車の帰りの便は機関車が後ろ向きになっていた。これではライバルのSL列車たちに見劣りしてしまう。島田市が転車台を作ってくれたおかげで、行きも帰りも機関車が前向きになった。それにも関わらず、大井川鐵道は減便した。まるで裏切りだ。しかし島田市は黙ってバスを買った。大井川鐵道を残したい。負担を減らし観光客を呼んでほしい。そんな思いがあったのだろう。
この島田市の転車台が大きなプロジェクトを呼び込んだ。きかんしゃトーマスだ。2014年、大井川鐵道ときかんしゃトーマスの日本の版権保有会社「ソニー・クリエイティブプロダクツ」が契約し、きかんしゃトーマスの運行が始まった。夏休み期間に、ソドー島からトーマスと仲間たちがやってきて、大井川鐵道で運行、展示される。この間、大井川鐵道で運行される車両たちは姿を消す。トーマスたちと交代でソドー島に行ったかもしれない。そのあたりは大人の事情ってやつだ。
前述のように、いまや大井川鐵道の他にもSL列車を運行する路線がある。なぜ大井川鐵道を選んだか。きかんしゃトーマスが大井川鐵道にデビューしたとき、関係者に聞いたところ「40年にわたるSL列車運行の経験と技術力、意思決定の速さ」が決め手だったという。大井川鐵道には蒸気機関車の修繕・塗装などのノウハウがある。故障した部品が入手できなければ自作するし、ボイラーなど自社で手に負えない部分は協力会社「東海汽缶」が面倒を見てくれる。
クドいようだが、きかんしゃトーマスはソドー島からやってくるという建前だ。大井川鐵道の蒸気機関車と仕様が異なる。単純に車体を青く塗り、顔を付けて真似れば良いというわけではない。よくみると、ヘッドライトの位置がボイラーの真上ではなく、連結器のそばにある。原作に忠実な姿だ。大井川鐵道は、こういう改造をさらりとやってのける。意匠を大切にする版権管理会社にとって、大井川鐵道の心意気はありがたい。
大井川沿いの自然と、大井川の大鉄橋を走るきかんしゃトーマスは、国内外から注目され、運行シーズンは常に予約が埋まるほどの人気となった。それでいて、国鉄仕様の黒い機関車も走らせてくれるから、鉄道ファンにとってもありがたい会社である。