1ページ目から読む
5/5ページ目

ブライダルトレインで「鉄旅オブザイヤー」の審査員特別賞

 SL列車に展望車を連結して結婚式と披露宴を開催するツアーもある。駅長が立ち会う人前結婚式のあと、列車で披露宴を実施する。新郎新婦の衣装着付けや前後泊など、ブライダルトレイン企画がひとつの団体パッケージとなり、電話1本で申し込める手軽さが人気だ。列車の走行は周知されるため、川根温泉の露天風呂や沿線で人々が手を振ってくれる。この企画は鉄道企画ツアーを表彰する「鉄旅オブザイヤー」の審査員特別賞となった。

展望車は旧型客車ではなく、西武鉄道の電車を改造した

 鉄道ファン向けの企画も多い。夜の機関車を撮影するツアー、旧型電気機関車と旧型客車で何回も往復し、国鉄時代の長距離鈍行を疑似体験するツアーなどがある。

新しい大井川鐵道の楽しみ方

 2020年11月に催行された「がんばれ大鉄・大井川鐵道探求の旅」は、SL列車を運行する大井川鐵道本線と、トロッコ列車の井川線の魅力をすべて楽しむ1泊2日の行程だった。宿泊はもちろん川根温泉ホテルで、夕食朝食共にビュッフェスタイル。地元の新鮮な魚介類と野菜、郷土食を味わった。

ADVERTISEMENT

 SL列車に定期列車では使わない展望車を連結し、SL研修庫や西武鉄道から購入した電気機関車の運転台を見学。井川線区間では車両基地や研修庫の見学、千頭駅構内でディーゼル機関車の運転体験。アプト式機関車の機関庫を見学した。アプト式とは、急勾配を上下するために、機関車の下部に歯車付きの動輪を設置して、線路中央にも歯のついた「ラックレール」を置き、機関車の歯車とラックレールを噛み合わせて走る。ふだんの乗車ではこの歯車機構は見えないけれど、このツアーではピットに潜り込み、機関車の構造を見学。歯車の仕組みをしっかり見られた。

千頭駅構内でディーゼル機関車の運転体験会を開催
アプト式機関車
こちらはラックレール開始部分。歯車の歯がだんだん高くなっている

 観光面で井川線は未開発の部分が多い。アプトだけではなく、秘境駅からのハイキングやダムをめぐるツアーも楽しそうだ。とくに終点の井川駅付近にある井川ダムは中空重力式という珍しいタイプで内部が空洞になっている。ふだんは非公開ながら、映画のロケに使われたという。ツアー形式で見せてもらえたら人気が出るだろう。

 往年の鉄道ファンからみれば、大井川鐵道は、昭和のSLと客車が走るレトロな鉄道会社というイメージだろう。しかし、いまはそれだけではない。遊覧飛行やグルメ、トロッコ列車と組み合わせた新しい大井川鐵道を訪ねてほしい。

 写真=杉山淳一