「私が北朝鮮政府から一任されているのです」
実際、小坂から話を持ち込まれた日本のゼネコンは1社や2社ではない。小坂のセールストークはこうだったという。
「日本政府並びに坂口厚労大臣は、国交正常化に先立ち、北朝鮮在住の被爆者へ補償費として42億円を支払うべく準備しています。北朝鮮国内では、その補償費を病院の建設・運営に充てる計画であり、受注業者については私が北朝鮮政府から一任されているのです」
小坂の話した「42億円の補償費」とは、韓国の被爆者に対する政府補償に基づいて算定された金額なのだという。日本企業に対する売り込みのなかで、小坂は建設業者以外の医療機器メーカーやベッドメーカー、厨房施設業者など、事業に前向きな企業の具体名をあげ、計画実現への可能性を強調した。この病院建設を皮切りに、そこからゼネコンにダムや発電所、道路などのインフラ整備の計画も盛んに持ちかけるようになる。例によって、金銭的な寄付の要請も忘れない。あるゼネコンの担当者には、こう話したという。
「すでに両国の政府間では、国交正常化の行程ができあがっています。正常化後は、まずわが国のODA資金で、6カ所のダムと3カ所の港湾整備、さらに道路建設などをおこなう予定になっています。それらのプロジェクトを受注するためには、なにより北朝鮮政府に対する人道支援の実績が必要です。レインボーブリッヂが支援の窓口となっていますので、こちらへ寄付していただければ、それなりの実績になります」
その口車に乗り、ゼネコン業界では、いち早く前田建設工業が小坂の計画に飛びついた。大手ゼネコンの国際担当幹部が語る。
「前田建設では、専務が率先して小坂の北朝鮮プロジェクトに乗っかり、実際に現地の調査名目で資金を出している、と聞きました。なんでも発電所のボーリング調査として、億単位の調査費を支払ったそうです」
前田建設は水谷建設にとっての元請け業者である。公共工事における最も大切な事業相手だ。そしてそんな関係もあり、水谷功は小坂の話にますます前のめりになっていく。
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