性風俗の世界で働く女性の無料生活・法律相談窓口「風テラス」には、昨年、2929人もの相談者が殺到したという。様々な業界に甚大な影響を与え続けているコロナ禍は、いわゆる“夜の世界”で生きている女性たちの生活も一変させた。

「風テラス」の発起人・坂爪真吾氏による『性風俗サバイバル ――夜の世界の緊急事態』(ちくま新書)には、その生々しい現場の実態がまとめられている。同書より「第四章 歌舞伎町に立つ」の一部を特別に掲載する。(全2回の1回目/後編へ続く

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緊急事態宣言下でも、路上に立ち続ける女性たち

 新宿・歌舞伎町の一角には、「立ちんぼ」や「街娼」と呼ばれる、路上で売春の客待ちをする女性たちの集まるエリアがある。2020年4月に緊急事態宣言が発出された直後も、そのエリアには客待ちをする女性たちが立ち続けていた。

 路上での客待ちや勧誘は、売春防止法第5条で禁止されている、れっきとした違法行為である。悪意のある客から性暴力やストーカー、盗撮や盗難の被害に遭うリスクも大きい。性風俗店に在籍して働くことに比べると、安全面でも収入面でも、路上に立つメリットはほとんどないように思われる。

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 なぜ彼女たちは、コロナの渦中に歌舞伎町の路上に立つという選択をしたのか。そして、路上に立ち続ける彼女たちを公助につなげるために必要な支援の在り方とは何か。緊急事態宣言下の歌舞伎町で夜回りを実施していた数少ない支援者の一人である、NPO法人レスキュー・ハブの坂本新(あらた)さんにお話を伺った。

坂本「緊急事態宣言が出た直後の歌舞伎町は、飲食店のネオンや街灯が消え、正面玄関であるセントラルロードやTOHOシネマズ(旧コマ劇場)前の広場もこれまでにない暗さで、通行人もほとんどいませんでした。濃厚接触が禁忌とされている社会情勢の中で、さすがにこの時期に路上に立っている女性たちはいないだろう……と思っていたのですが、いました。それどころか、日を追うごとに、新顔の女性が立つようになっていきました」

 人身取引の被害者を支援する団体の職員だった坂本さんは、2年前から都内の繁華街で夜回りを行っている。ガールズバーの前で客引きをする若い女性や、ホテル周辺の路上で客待ちをしている女性たち一人一人に声をかけ、彼女たちの声に耳を傾ける。一定の信頼関係を作った上で、必要に応じて警察や弁護士、役所や病院、民間の支援団体やシェルターなどの窓口につなぐ、という草の根の支援を続けている。