藤井の連勝を止め、「壁になることができて良かった」
2013年に若手棋戦・加古川清流戦で優勝した佐々木は、C級1組に昇級したが、各棋戦であと一歩の状態が続いていた。そんなとき、藤井聡太というモンスターがやってきた。29連勝を達成した竜王戦本戦トーナメントの増田康宏六段戦では、朝、次の対戦相手となる佐々木が対局室で見つめていた。「多くの取材陣に囲まれる環境に慣れておきたい」と考えたという。
2017年7月2日の藤井戦、佐々木は永瀬と研究していた研究手をぶつけ、徐々に差を広げていった。師匠は将棋センターで見守っていたが、将棋連盟で検討していた私が「勇気が勝勢になりましたよ」と連絡すると、「ホントか!」と叫んだ。
佐々木は局後のインタビューで「私たちの世代の意地も、ちょっと見せたいというのはあった。壁になることができて良かった」とコメントした。
佐々木は一躍有名になった。師匠にも取材が殺到し、柏将棋センターの子供教室は人であふれた。
だが、注目を集めすぎたことで調子を崩してしまう。竜王戦での敗戦を含め、2か月間の成績が3勝7敗と急降下した。特にC級1組順位戦の敗戦が痛恨だった。
2018年3月、佐々木は最終局を勝って9勝1敗で終えた。だが全勝が1人おり、永瀬も9勝1敗だったため、順位の差で佐々木は上がれなかった。佐々木がC級2組から昇級したときは、永瀬を順位わずか1枚差で頭ハネした。その借りを返されたのだ。棋王戦では挑戦者決定戦敗退、王位リーグでは3連勝から連敗でリーグ陥落と、どれも後一歩に終わった。
一方で永瀬は棋聖戦と棋王戦で挑戦者になるなど各棋戦で活躍し、菅井は2017年8月に羽生善治九段から王位を奪って、同期のタイトルホルダー一番乗りとなった。ライバルの背中が遠くなった。
大学を卒業した年の叡王戦が転機に
高見は立教大学に進学したが、棋士と学業の両立に苦しんでいて、最初の5年間は鳴かず飛ばずだった。だが、大学を卒業した年に叡王戦がタイトル戦に昇格したことが転機となった。
将棋に集中できるようになって成績が上がり、叡王戦では五段戦予選を7連勝して勝ち上がった。さらに本戦トーナメントでは豊島将之八段・渡辺明竜王・丸山忠久九段(いずれも当時)とトップ棋士を連破して挑戦者に。2018年4月にはじまった金井恒太六段との七番勝負では得意の終盤で逆転勝ちし、3連勝してタイトル獲得に王手をかけた。
5月26日、群馬県の富岡製糸場で行われた第4局を石田師匠はお忍びで見に行った。高見は師匠に頼んで書いてもらった直筆扇子を持参して戦い、見事勝って初代叡王の座についた。C級2組在籍の棋士がタイトルを取るのは郷田真隆九段以来、26年ぶりだった。