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敗れた直後に新宿将棋センターへ

 高見はNHK将棋フォーカスの司会があるため、毎日忙しい。それでもお礼の手紙やはがきは欠かさない。最後にこんな質問をした。

――高見くん、もっと自分中心に生きてもいいんじゃない?

 すると、しばらく沈黙した後「人に迷惑をかけるのがいやなので。これからも自分のペースでやってきたいなと思います」と明るい声で答えた。

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一門の新年会(2020年)にて(筆者撮影)

 佐々木は、対局が続いていて直接話は聞けなかったが、「高見さんは先手矢倉の研究が深く、自信を持って指しているのが棋譜から伝わります。持ち時間の使い方も上手いと思います。弟子が勝つと師匠がほんとに嬉しそうなので一緒に盛り上げていきたいですね。いい将棋を指していけるよう努力したいと思います」とメールで返事が返ってきた。

 3月30日、佐々木は王将戦1次予選で古賀悠聖四段に敗れた後、帰りに3月いっぱいで閉まる新宿将棋センターに立ち寄った。この道場で佐々木と永瀬は数多く将棋を指した。夜、道場が閉まるギリギリまでいて怒られたこともある。受付の男性に「今までお世話になりました」と一言告げてすぐ帰った。時折こういう行動をするのが彼らしい。

「同世代に負けないよう、そして藤井二冠に肉薄できるよう」

 師匠にも話をうかがった。

「勇気はね、順位戦では素晴らしい戦いぶりでした。時間もしっかり使っていて、意気込みが違ったですね。YouTubeの石田一門チャンネルで勇気と話したんですが、『順位戦はどの将棋も印象に残っている、力が出せた将棋が多かった』と言っていました。

 高見は実力からみたら上がって当然かもしれませんが、負けて上がったのは幸運でした。彼は幸運を呼び込む男なんですよ。叡王になったのもそうですし。アベマトーナメントで指名されたのも幸運ですよ。第1希望を藤井二冠が抽選で外したからこそでしたしねえ。

 2年連続で弟子二人が昇級というのは快挙ですが、この次は簡単にはいかないと思います。勇気は『相手が強いほど将棋は楽しい。いい手を多く指されるので大変だけど頑張りがいがあります』と言っていましたが、藤井二冠とも戦うことですし、A級に上がるのはなかなか至難です。

 勇気が棋士になってもうすぐ11年ですか。月日の経つのは早いですね。欲を言ったらきりがないが、勇気と高見の二人はよく頑張っていると思いますよ。同世代に負けないよう、そして藤井二冠に肉薄できるように食らいついてほしい。また、門倉に大夢に三枚堂にゆりあちゃん(加藤結李愛女流初段)、みんな大事な可愛い弟子です。みんなこれからも頑張って欲しいですね」

 二人の生き方を見ると違った意味でハラハラする。足して2で割ってちょうどいいな、といつも思う。だが、これからも佐々木は佐々木らしく、高見は高見らしく生きるのだろう。それが二人の持ち味なのだから。

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