――さきほどの『正論』の対談で、伊藤さんは「宮脇淳子さんと江崎さん、それに櫻井よしこさんははっきりした議論をする人」と仰っています。ただ、例えば櫻井さんは歴史家というよりはジャーナリストですよね。こういった方々について、伊藤さんはどう評価されているのでしょうか。
伊藤 そういうなら、江崎さんも歴史家ではないからね。歴史には非常に関心を持っているけど、彼は政治の実務家ですし。それから宮脇さんは、非常に目を開かせてくれるすばらしい学者なんですが、東洋史ですから。東洋史といっても、やっぱりアウトサイダーではありますけど。僕は今、その3人を尊敬してるんです。
――それ以外で、評価されているかたはいますか。
伊藤 そうですねえ。あと、僕は古代史は専門じゃないからあれだけど、田中英道さんの最近の著作なんてちょっと面白いなあと思ってるんですけどね。半信半疑なところもありますが、でも、やっぱりマルクス主義に毒されてないという点で非常に面白いと思って。
アウトサイダーへの期待
――伊藤さんとしては、アウトサイダーのほうが見るべき人はいるとお考えですか。
伊藤 そうです。自分で考えて歴史を分析してますから。
――最近ですと、百田尚樹さんの『日本国紀』がすごく売れていました。
伊藤 僕、あれ、読んでないんだよ。
――そうですか。ちなみに、東大にいらっしゃったときも、文学部のつながりより、御厨貴さんや北岡伸一さんなど、法学部系の人とのお付き合いが多かったのかなと思いますが。
伊藤 それはね、そうじゃないんです。彼らが僕のゼミに来たんですよ。というのも、僕は法学部との付き合いは深かったんです。法学部の教授になった三谷太一郎氏がアメリカに留学にいったときに代わりに講義をやったり、あとは国史から法学部へ行った佐藤誠三郎は一番の親友ですから。で、僕を高く評価してくれたのも岡義武という法学部の先生なんです。
――なるほど。その御厨さんや北岡さんも日本の近現代の政治史についていろいろと書かれていますが、伊藤さんはそうしたお仕事について、どのように捉えていますか。
伊藤 そうですねえ……まあ、かつては高く評価していたのですが、今はあんまり評価してないんです。だいたいにおいてあの人たちは、学者というよりは、何かちょっと別なものになったような感じがしますね。北岡君なんて、前、日中歴史共同研究の座長をやってたでしょ。それで戦後70年談話のときかな、「安倍さんには『日本は侵略した』と言ってほしい」とか言って。何を言ってるんだと、僕は思ったんですけど。
資料の復刻とかね、僕は自分のゼミ生と一緒に仕事はしてきました。ずいぶんたくさんの資料を、もう山のようにやりましたけどね、自分の弟子というか、ゼミ生に対しては、多少失望していますね。もうちょっとなんとかならないかなと。
(後編に続く)
撮影=鈴木七絵/文藝春秋