文春オンライン

連載昭和事件史

「現場は大破した機体が四散し墜死した乗客の死体が…」機長が酩酊!? 終戦直後の“借りもの航空の惨劇”

「現場は大破した機体が四散し墜死した乗客の死体が…」機長が酩酊!? 終戦直後の“借りもの航空の惨劇”

占領下で起きた日航機の悲劇「もく星号」墜落事件 #2

2021/04/11
note

機長は酒を飲んでいた!?

 事故からちょうど1カ月後の5月9日、事故調査会が調査結果を発表した。朝日の記事は――。

 日航機『もく星』号の遭難原因について、運輸省では「航空事故調査会」を特設。約1カ月にわたって究明していたが、9日、正式決定をみたので閣議に報告した。遭難の直接原因は、操縦者が計器飛行のため、その航空路について規定されている最低高度以下を飛行したことによるものと推定された。また、村上運輸相は9日朝、参院本会議でもその調査結果を報告した。同調査会の推定する理由は次の通り。

1.接地の状況や残存する機体、発動機、プロペラ、無線機、その他の装備品を詳細に検討した結果、操縦に影響を及ぼすような故障を起こしていなかった

2.当時の気象状況は雲中飛行しなければならないような状態にあり、多少の気流の乱れが予想され、局地下降気流があったとも考えられるが、このため操縦不能または低空飛行しなければならなかったとは認められない

3.航空保安施設については、その当時、羽田、館山、大島、焼津の各航空無線標識には異常がなかった

4.航空交通管制については、羽田出発時において一度誤った交通指示が出されたが、直ちに訂正されている。また、館山通過前後の記録に多少の矛盾が認められ、航空機との連絡に不十分な点があった。これは事故の直接原因にはなり得ないが、このような航空交通管制の不手際が操縦者の錯誤を誘発する原因になり得たかもしれない

5.操縦者はアメリカのエアラインパイロットの有効な資格を持っており、また、その航空路線にも相当慣れていた

 結論として事故の原因は、旅客、乗員が全員死亡しているため確認することは困難であるが、航空交通管制の不手際その他、何らかの間接原因に基づく操縦者の錯誤ということを、非常な確実性をもって推定し得る。

事故調査会の報告を伝える朝日

 これに対し、同じ紙面にはノースウエスト航空のキング副社長と、機長ら2人が所属していたトランスオーシャン航空のニコルス理事の談話が載っている。

 大庭(哲夫・航空庁)長官(調査会会長)はじめ事故調査会の調査ぶりには敬意を払っている。従って、調査結果をとやかく批評することは不当である。ただ、全ての責任がパイロットに押し付けられるのもまた不当だと思う。古来“死人に口なし”と言う。結果において、パイロットをあの高度で飛ばせた周囲の状況を告白し得る者は全て死んで1人もいない。しかも、あの飛行機にも正副2人のパイロットがいて、同じラジオを一緒にレシーバーで聞いていたはずである。2人のパイロットにそろって判断を誤らしめたものが何であったか。スチュアート機長が当時酒を飲んでいたというのは全く事実無根である。これには出発前後、彼と会っている証人がある。また、彼の健康、睡眠状況などについても、何ら異常な点はなかったということも証人がある。

「機長は酒を飲んでいた」(毎日)

ADVERTISEMENT

「酒」というのは、5月8日付毎日朝刊が「“ス機長は酒を飲んでいた” ドロンとした眼、ふるえる手」と伝えたことを指す。機長を宿舎付近から羽田まで送ったハイヤー運転手が、機長が料金の支払いを忘れ、手も震えていたようだった、などと証言していた。