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「いじられるのが上手い人しか生き残れない」は昔の話? ケンコバが感じた「第七世代」への“違和感”と“現実”

『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』より #2

2021/04/13
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 霜降り明星せいやのふとした一言がきっかけとなり、一大ブームとなった「第七世代」。お笑い界を世代で分けて概観する画期的な言葉の発明によって、第一世代から第六世代までの大まかな分類が行われ、世代ごとの違いについても盛んに論じられるようになった。それでは、結局のところ「第七世代」の芸人にはいったいどのような特徴があるのだろうか。

 ここではお笑い評論家のラリー遠田氏の新刊『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社)を引用。第七世代の芸人が人気になる理由について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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第七世代はひな壇でガツガツしない

 お笑いの歴史の中で、一度に多数の若手芸人が注目されてブームになる現象は何度もあった。ただ、第七世代の台頭は、これまでの若手芸人ブームとは質が違う。

 ここ数十年の間に、新しい世代の芸人は続々と出てきたが、第二世代の明石家さんまや第三世代のダウンタウンはいまだ現役でテレビの最前線に立っている。

 下の世代の芸人は彼らと共存することはできたが、彼らの地位を脅かすことはできなかった。

 だが、第七世代と上の世代との違いはもっと根本的なものだ。第七世代の出現によって、第一世代から第六世代までの芸人が一気に古いものになる可能性がある。

 上の世代の芸人との価値観のズレや考え方の違いは、すでにバラエティ番組でもたびたび話のネタになっている。

 たとえば、芸人が多数出演するひな壇番組に呼ばれたとき、上の世代の芸人は自分をアピールするために必死になる。自分が話すスキを見つけると、立ち上がって声を張り上げたりもする。

 だが、第七世代の芸人はそこまでガツガツしていない。ひな壇の片隅にのんびりと座っていて、自分の番が回ってきたら何か言えばいいや、という感覚の人が多い。

©iStock.com

 決してやる気がないわけではなく、考え方が根本的に違うのだ。『世代論の教科書』(阪本節郎・原田曜平著/東洋経済新報社)によると、1983~1994年生まれは「さとり世代」と呼ばれる。1989年以降の生まれである第七世代は「さとり世代」とも重なっている。

 同書では、さとり世代の特徴として「『少子化』で競争が少ない」ということが挙げられている。

 日本の合計特殊出生率は70年代後半から減少を続けてきたが、その中でも少子化問題が表面化したのは、さとり世代が生まれた時期にあたる1990年の「1.57ショック」からだった。

 このとき、合計特殊出生率が1.57を記録し、これが丙午の迷信による出生数減によって合計特殊出生率が1.58だった1966年よりも低かったため、世の中に大きな衝撃を与えたのだ。

 さとり世代は人口が少ないため、受験勉強やスポーツのうえで、それまでの世代と比べて競争が激しくなかった。

 また、さとり世代の中でも1987年から2003年に生まれた人は、ゆとり教育を受けていて「ゆとり世代」とも呼ばれた。

 知識偏重型の詰め込み教育が問題視され、学習時間と内容が減らされた。

 そんな(ゆとり世代を含む)さとり世代は、競争しなければいけないという意識が薄く、他人を押しのけてまで自分の意志を通すことを望まない。

 第七世代の芸人がひな壇でガツガツしないのは、そのような理由もあると思われる。