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「いじられるのが上手い人しか生き残れない」は昔の話? ケンコバが感じた「第七世代」への“違和感”と“現実”

『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』より #2

2021/04/13
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価値観が変化した大きなきっかけ

 この点で人々の価値観が大きく変化するきっかけの1つになったのが『M-1グランプリ』である。

 若手漫才師が日本一を目指して争う『M-1』は、島田紳助の発案により始まった。紳助は凄腕の芸人でありながら、天才的なプロデューサーであり、無類の「感動好き」でもある。

島田紳助氏 ©文藝春秋

 紳助は『M-1』を単なる漫才の大会ではなく、一種の人間ドキュメントであると考えていた。

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 若手漫才師が、優勝を目指して1年かけて努力を続け、己のプライドを懸けて真剣勝負を繰り広げる。『M-1』の生放送では、楽屋や舞台裏にまでカメラが入り込み、緊張する芸人の様子を映し出していた。優勝が決まった瞬間、芸人たちは感極まって握手をしたり、抱き合ったり、涙を流したりした。

 単なる漫才のコンテストを感動的な人間ドラマに仕立て上げたことで、『M-1』はお笑い界有数の人気コンテンツになった。『M-1』が始まった2001年当初、お笑いに感動の要素を持ち込むことは一種のタブーとされていた。

 だが、『M-1』があまりにも華々しい成功を収めたために、そこに感動的な演出があることが当たり前になり、見る側もそれを期待するようになった。

 第七世代の芸人は、物心ついた頃から『M-1』を見て育っているため、「感動路線」のお笑いに対して抵抗がない。

 むしろ、『M-1』を見続けて、素直に自分も熱い気持ちになり、優勝したいという夢を抱く。そして、一心不乱にそこに向かう。

 その過程に一切の照れがないというところが、第七世代の際立った特徴である。

第七世代が先輩からかわいがられる理由

 そんな第七世代の芸人は、上の世代の芸人と価値観の違いで激しく対立しているのかというと、決してそんなことはない。

  むしろ、テレビやライブで見る限りでは、第七世代の芸人は先輩芸人からも愛され、かわいがられている。

 少し前までのお笑い界では、駆け出しの芸人は先輩芸人に冷たく対応され、潰されてしまうのが普通だった。潰されても潰されてもはい上がってくる力のある芸人だけが、何とか生き残っていくことができた。